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37 カルロスは誘っていた。魔王がエサにかかるのを

■□■□


 試合がヤマコーのボールで再開される。残り時間は3分と少々。


 仮に両校引き分けの場合、得失点差でヤマコーが決勝トーナメントに進出する。

 そのため、ヤマコーは敢えて攻めずにディフェンスを厚くし、引き分け狙いの陣を敷いてきた。

 鉄壁の守備でキボコーの攻撃をはね返す。キボコーが素早い攻撃を展開させる前に、その芽を潰す。

 一種の籠城戦。3分少々を耐え抜けばよい。


(卑怯な奴らめ)

 魔王は目を吊り上げて憤った。魔界の倫理観・魔道では、引いて守ることは軟弱者が取る戦法だ。

 魔道をもって覇道を制する、を地で行く魔王にとって、ヤマコーの戦術は歯がゆい。


 時計の針が進むにつれて、キボコー側に焦りの表情が見え始めた。

 対するヤマコーは攻撃をはね返すごとに、顔色を明るくしていく。


 ここにおいて、苛々しているのは魔王だけではない。熱くなりやすいキャプテン藤堂もまた、平常心を失いかけていた。

 そうして事は起きる。


 カルロスがこの試合で初めてボールタッチをミスった。

〝とき、まさに来けり〟

 ゴリゴリの理系で古文の成績が壊滅的なくせに、教科書に出てきそうな一文がキャプテン藤堂の頭中で閃く。

「死ねえぇぇいっ!」

 矢も楯もたまらず、またしてもフラグ立ちまくりのセリフを吐くキャプテン藤堂。カルロスにスライディングタックルをかました。

 前半と同じようにカルロスが華麗なジャンプでかわ……さなかった。

 タックルを喰らったカルロスがアキレス腱を手で押さえのたうち回る。

 主審が笛を吹いた。


「げ」


 キャプテン藤堂に対して示された一枚のカード。

 レッドカードだった。一発退場。

 アキレス腱へのスライディングタックルはレッドカードを誘発する。

「アホ藤堂ぅううううううっ」

 退場するキャプテン藤堂と、怨嗟の声を漏らすキボコーの面々を尻目にカルロスがほくそ笑んだ。碧い目ではなく、赤い目が煌々と灯る。


 そう。

 すべてはカルロスが仕組んだ演技だ。

 興奮しやすい選手を前にしてボールを受け損なうフリをする。それを好機と捉えた相手が足を出してきたらケガをしないように上手にあたる。あとは、アキレス腱をやられたアピールをすればよい。

 まんまとカルロスにはめられた。

 人数が1人少なくなったキボコー。

 試合終了まで1分を切った。

 ヤマコーは自陣でボールを回しだす。時間切れとなる瞬間を今か今かと待っている。

1人少ないキボコーは数的不利をくつがえせずに、ヤマコーのパスワークに翻弄された。ボールを奪えない。


 と――、

 カルロスがボールタッチをミスした。


(……また!?)


 彼の双眸が朱く灯っている。周囲はそれを、外国人特有の瞳の色と思ったようだ。

彼は誘っていた。

 ユルサナイ相手・魔王がエサにかかるのを。


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