表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/65

34 陽光が魔王の頭上で砕け、光のヴェールを魔王に纏わせた

 ふと、300年前の『自称勇者』の襲来を、魔王は思い出した。(魔界に『勇者』を名乗る者が突如として現れるのはよくあることなのだ。ただし、それが自称で終わるか、本物の勇者として語り継がれるかは別モノである)


 自称勇者軍は、平原に凸の形で布陣した。いわゆる車がかりの陣である。

 それに対して魔王は、軍を凹型に配置する。すなわち鶴翼の陣で応戦した。


 どことなく、キボコー対ヤマコーの対決は、この時の合戦に似ていた。

 カルロス鈴木が凸の頂点で、一点突破をしかけてくる。あの時の自称勇者軍も、ダントツの攻撃力を有する自称勇者を頂点にし、放たれた鋭い矢のように一気に軍を動かし魔王の首を狙いに来た。

 怒涛の勢いで進軍する自称勇者軍を鼻で笑った魔王は、周囲へ檄を飛ばした。

『凸が勝つ場合は、凹の中央に鎮座する大将が、凸の先端に位置する者より弱い場合のみである。さて、皆に問う。今、凹の中央におる吾輩は弱いか?』

 魔王はニヤリと笑った。

『どれほど鋭い凸でも、受け止める凹の中央にいる吾輩が受け止めよう。吾輩が受け止めた相手を、凹の両端にいる皆が一気に両サイドから叩くのじゃ!』


 うおおおおおおおおおっ!

 魔物達の雄叫びが魔界の薄暗い空を揺るがした。大地を震わせた。

 結果、自称勇者軍は魔王の前で呆気なく敗れた。

 黄色い(イエロー)鎧を着た自称勇者は、首を刎ねられる直前、悔しそうにこう漏らした。

『せめて自分の鎧が赤色レッドならば、戦隊モノで一番強かったのに……。たとえレッドじゃなくても、青色ブルーならば……』

 意味不明なことを言ってんじゃねーよ、と魔王は配下に即刻斬首を命じた。


 今まさに、魔王はその時の気概を取り戻していた。

 自称勇者に等しいカルロス鈴木を見事に打ち取ってみせよう。

 魔王は拳をぐっと握り締める。


 3年生のフォワードと交代する際、魔王は肩を軽く叩かれた。

「頼んだ、碧人」


 失礼極まりない言葉だ。魔王に『頼んだ』などとは。もしここが魔界ならば、彼は側近によって瞬殺されていただろう。

 もしもここが魔界ならば……。以前の、魔王、ならば――。

「はい……せ、先輩……任せ……て、くだ……さ……い」

 丁寧語もしくは尊敬語。この国において、後輩が先輩に対して口をきく際の鉄板の言葉づかい。魔王はこの日、この時、初めて意識した。

 汗まみれの3年生フォワードがそんな魔王に、ニコっと笑いかける。

「緊張すんなって」

 彼は、公式戦に初出場する碧人(魔王)がナーバスになっていると、勘違いをしたようだ。

そうして――祝福のハグをしてくれた。魔王の首もとで言葉が紡がれる。

「俺達はまだ終わりたくない。それを一年のおまえに託すのは心苦しい。でも、」

 ハグする腕に力が込められる。

「おまえ達と一緒に、できるだけ長くサッカーをやりてぇ」

「――」


 3年生フォワードの肩越しに観客席が見えた。

 実力不足でベンチに入れなかった三年生が必死の形相でキボコーの重い必勝旗を振っている。応援チャントを謳っている。

 彼らはキボコーの勝利を、3年を、2年を、そして今まさに交代でピッチに立とうとしている1年の碧人(魔王)を、仲間を信じて、声援を送っていた。


 ずずずと魔王は涙の塊を鼻で啜った。

「風邪か? 沢山走って、身体あっためてきな!」

 先輩に力強く背中を叩かれた魔王は、ピッチに足を踏み入れる。

 背中を小突かれたことが無礼などとは、もう微塵にも思っていなかった。

 ただ、ただ、――後輩を思いやる先輩への敬意だけが、魔王の心には宿っていた。魔界で後輩的立ち位置になったことがない魔王が知った、先輩の心の温もりだった。


 芝の感触を踏みしめ、力強いストライドで、自分がつくべきポジションへ駆けていく魔王。陽光が魔王の頭上で砕け、光のヴェールを魔王に纏わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ