30 サッカーのハーフパンツは速乾性生地で薄い
2失点のままハーフタイムを迎えた。
キボコーはまだ1点も取れてない。シュートはゴール枠から次々と外れていた。
真っ青な顔でピッチから戻って来るキボコー面々。
このままでは予選を突破できない。今日が3年のラストゲームになる。
その3年の、いや、キボコーの代表、キャプテン藤堂が吠えた。
「負けるわけにはいかないんだよっ!」
いつにない真剣な表情のキャプテン藤堂。その目は軽く潤んでいる。
悔しいのだろう。突如として相手チームに現れたカルロスにピッチを蹂躙され、高校サッカーを終えるのだ。無念に違いない。
彼の想いに応えるように、キボコーメンバーは、誰に言われたということもなく、自然と、円陣を組んだ。前半を戦った選手も、ベンチに座っていた選手も、その体は熱くほてっている。
チームの熱い想いに呑まれるように、魔王も皆と一緒に肩を組む。
「逆転すんぞぉおおっ!」
「おうっ!」
ときの声が蒼い空を揺さぶった。
キボコーを後押しするように、一陣の強風が、ごうと吹く。
――と、
内股でベンチに座りながらツンツンしていたマミりん。彼女が被る帽子が飛ばされた。
「あ」
喘ぎ声がマミりんから漏れる。
円陣を組んでいた地球環境貢献軍団の下半身が即座に反応を示した。
「おい、顔上げろよ」
「おまえこそ上げろよ」
「無理」
肩を組み、上半身を屈ませた姿勢で、皆が固まった。
サッカーのハーフパンツは速乾性生地で薄い。
「あんた達、何やってんの?」
全員が上半身を折った姿勢のまま、上目遣いにハスキーヴォイスの発声人を見る。
「やだ。気持ち悪っ」
吐き捨てた美神は、悠々と生足を交差させてベンチに座り、足を組んだ。タイトスカートから零れる太腿が、初夏の陽ざしを受けむっちりと輝く。
部員達はさっきよりも低く上半身を沈めた。
「いつまでそんなことしてんのよ」
苛立った美神が作戦用マグネットボードを手でバンバン叩く。
一瞬で恐怖に凍りつく部員達。マンモスが動物園の象さんへとスケールダウンしたため、彼らは上半身を上げた。
その時、
「あ」
またもやマミりん。
音速で反応する地球環境貢献軍団の象さんがパオオオオンと猛る。再びお辞儀の姿勢で固まる彼らの頭の中には、風吹いていねーよな、との疑問だ。
「美神監督代理、ヘアサロン行ってきましたぁ? あと、カルロスさんって、妖精みたいですね」
マミりんのほわっとした声がひょろひょろ流れてきた。
(ヘアサロン? 今?)
「最近行ってなかったからね。時間もあったことだし。髪は命だしね」
美神が平然と言った。
「髪は女の命ですぅ」とほわほわっマミりん。
(時間、……あった?)
ようやく彼らの暴れジュニアが温厚さを取り戻した頃、
ピピッ
主審が笛を吹いた。ハーフタイムが終わった。
「ったく。結局、指示出せなかったじゃない。ほら、早く行きなさいよ」
(……ヘアサロンに行かなければよかったのでは……?)
しっしとマグネットボードで蠅を追い払うように、美神は部員達をピッチへ送り出す。
「結局どーすりゃ、カルロスを止められんのよ?」
誰かの呟きが大気中に溶けていく。
そこへ――
「や、やっと、……つ、着き……ました。はあっはあっ……」
「あれ、あなたはえーっと、誰だっけ?」
美神が問うた先、呼吸を乱して到着した絶世の美少女は、血まみれの顔を破顔させた。なお、擦り切れた膝からは血が垂れ、白いソックスにこびり付いている。
「あ、秋月、ゆ、結菜です……。来る途中で、う、後ろから、お、男の子が乗ってる、さ、三輪車にぶつかられちゃって……」
(……三輪車とぶつかってそんな怪我をする……?)
疑問に思う部員達。
(いいなー。その現場見たかったなー)
事故現場に立ち会いたかったマミりん。
「と、とにかく、ま、間に合ってよかったです……そ、その……ふ、フレー、フレー、あ、碧人君……」
「もう後半だから厳密には間に合ってないけどね」
冷静につっこむ美神。
(……あなたも間に合ってないでしょ!)
「と、ところで、さ、さっき、て、ティッシュが……どうのこうの、と、み、耳にしたのですが……、ど、どういうことでしょうか? よ、よく分からなくて。か、勝つために必要でしたら、わ、わたし一肌脱ぎます……」
(――っ!)
『脱ぐ』を誤解した豚野郎どもが、速攻で上半身を屈めた。
「へ? ひあ? み、みなさん、ど、どどど、どうしたのですか……? お、お辞儀? お、お行儀がいいんですね」
ピピッ
主審が威嚇するように、キボコーに向けて笛を吹いた。




