29 死ねえぇぇいっ!
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サッカーは時に無情である。
キボコーは『絶対に、今日、ティッシュに出す』をスローガンに、試合開始序盤からガンガン攻めている。にもかかわらず、シュートがゴール枠を外れていく。
「みんな力みすぎだ!」
キャプテン藤堂が部員達に指示を出すも、地球環境を1週間エコにしていた彼らの体内には発散できなかったパワーが沈殿していた。
「うるあぁあああっ!」
シュートはコースを狙うよりも、備蓄オーバーになったパワーを放出するがごとく力任せのキックとなる。
対して、ヤマコーの選手たちは冷静だった。
受験偏差値はキボコーよりも低いが、今日のピッチ上で、ヤマコーはキボコーを上回る頭脳戦を繰り広げている。
各選手がパスを引き出すスペース作りが上手い。
トントンとボールが繋がっていく。俗にサッカーIQと呼ばれるものが高い集団だ。
それに加えて、ヤマコーにはカルロス鈴木がいた。
カルロスは選手登録〆切の5日前にヤマコーに転入した謎の日系ブラジル人である。
どのような経緯でブラジルから日本にやってきたのかは本人が語らないため不明だが、とにかく彼はサッカーが上手い。
聞けば、サッカー王国ブラジルで王様ペレなどを輩出した有名サッカークラブ・サンパウロFCの下部組織にいたとの噂。
すなわちカルロスはレベチだ。
彼にボールがおさまると、ひょいひょいと相手選手達を抜いていく。ボールはお友達どころかアツアツの恋人だった。どことなく、ボールを見つめるその目が赤い。
「メッシかよ」
「それアルゼンチンだから」
ツッコむ余裕があるならば、身体を張れ。イライラしながら戦況を見守る魔王。
そうして、破られた均衡。カルロスが5人抜きで、最後はゴールキーパーをかわしてシュートを決めた。
「マラドーナかよ」
「それアルゼンチンだから」
だからツッコむならば、足をひっかけてでもカルロスを止めろ! 魔王のもどかしさが頂点に達する。
「あの腐れメスはどこへ行った!」
ベンチの監督席は空だ。試合開始から30分経っても、美神は姿を消したままである。
美神が監督代理となってからはこのようなことが頻繁にあるため、魔王以外のキボコー選手達は慣れっこだが、大空碧人の身体に転生して初めての公式試合を迎えた魔王には納得がいかない。
将のいない軍が勝てる訳がない――戦の鉄則だ。
行儀よく座っていられない魔王が、ベンチに片膝を立てた。
味方のディフェンスラインが、ヤマコーの華麗なパスワークに翻弄されている。
と、矢のように突き刺さる1本の鋭い縦パス。
カルロスが受け損じることなくボールを足もとにおさめ、ドリブルで切り込んだ。
「死ねえぇぇいっ!」
キャプテン藤堂が、フラグ感まるだしでスライディングタックルをカルロスに見舞わせようとした。
ふわり、とカルロスが浮く。ボールと一緒に空中を歩くような見事なジャンプ。人間技とは思えなかった。
「マイケル・ジョーダンかよ」
「それアメリカだから。バスケだから」
カルロスが浮いた状態でくるりと身体を捻った。そのまま、オーバーヘッドキック。
蹴られたボールがキボコーのディフェンスを嘲笑うように、ゴールネットに吸い込まれた。




