27 心の中で魔王は美神に賛辞を送った
ふと、魔王は思い返した。
あれは千年ほど前の第三次魔界大戦。
代替わりで魔王が王座に就いた直後、勇者を称する者に導かれた者が魔王城を急襲した。古より伝わる予言では、勇者の降臨はまだななため、完全に不意を突かれた。
魔王軍の士気を把握し切れていない状況下、魔王は苦戦した。
魔王城の大事な部屋が燃やされ、侵略者の手が伸びてくる。
力不足を感じ、これまでか……その折だった。
後に魔王三傑となる、若かりしケロべロスが吠えた。
『魔王様を守り抜く! 負けられない戦いなのだ。魔王様の繁栄は永遠なり!』
勇ましき声は魔王城内に響き渡り、矢折れ刀尽きし魔物達に勇気を与え、士気を鼓舞した。要は、想いが刺さったのだ。
やってやろうじゃないか! 負けるか!
闘志を漲らせる魔物達。一度倒されても、二度、三度と起き上がる。
戦の風向きが変わった。劣勢を強いられていた魔王軍が盛り返したのだ。
そうして迎えたファイナルバトル――勇者を称する者は魔王によって討ち取られた。
魔王城に朗々と木霊する勝利の歌声。
それからの千年、魔王に統率された魔界は大繁栄の時期を過ごす。
魔王は直感を抱いた。きっと部員達は限界を越えるプレーをする。下馬評で上回るヤマコーを凌駕するサッカーをするだろう。
その場から去っていく美神の背を、魔王は改めて見つめた。
暑いためか、上着を羽織っていない彼女の上半身は、細くしなやかなにくびれている。いつにもましてぴっちりしたタイトスカートから伸びる足が、王者の花道を歩いているようだった。
(やるな)
心の中で魔王は美神に賛辞を送った。部員の士気を高める手腕に、感服したのだ。
さ、と美神が右腕を挙げる。まるで魔王の激励に応えるように。
「!」
まさか……、聞こえたのか吾輩の心の声が。そんな……。
底知れぬ恐怖が臓腑に染みた。
「碧人ぉー、ベンチ行くぞ」
早坂に誘われてその場で身を翻した魔王は、決戦のピッチ(のベンチ)へと集中力を高めながら歩いて行く。
手を挙げた美神の前でタクシーが停まったことを知らずに。




