23 アクエ〇アスのスパークリング
帰り道、心の中がざわついていた。
走って帰ればスカッとするかもしれないが、胸の奥に澱む粘ついた感情は、ちょっとやそっとで解消できそうもない。
それこそ、ヒューマンのレベルに合わせた走りごときで、ふぅいい汗かいたリフレッシュ……とはいかないことを、自己認識に長けた魔王は知っていた。
このモヤモヤを消すには、ヒューマンを超えた能力、つまりは魔王としての身体能力をもって暴れたい。だが、それをすることは身バレになる。転生してまだ幾ばくも無い魔王は、もうちょっとだけこの生活を過ごしたかった。
視線があらぬ方へと向いた。
魔王は目を見張った。それほどまでの異常事態の接近……口がワナナワと震える。右手をすっとあげ、死体を積み上げてきたその指先を――自販機のボタンへと。
ゴトり。
アクエ〇アスのスパークリング。
(まさか、スパークリングがあるとは……)
信じられない思いで、魔王はキャップを捻った。プシュウッと気の抜けた音。直後、一気にペットボトルを逆さにし、ぐびぐびと喉を鳴らして飲んでいく。
部活帰りの魔王は喉が渇いていたのだ。
日照りでヒビ割れた大地に雨水が沁み込むがごとく、魔王は潤いを感じた。
と、肩に何かが飛んできた。
虫だろうか。気温が上がるにつれて、その数も増えていた。
せっかくのアクエ〇アス満喫タイムを邪魔されたくない魔王は、邪険に肩の上を払った。
ぶちゃっと何かが潰れる音と、ふぁさっっと何かが抜ける音がするも、極上のひと時を過ごした魔王は気にしなかった。
「ふうっ」
口もとを腕でぐいっと拭いた魔王は、自販機脇のゴミ箱にペットボトルを捨てる。既に、この世界ではリサイクルが大事であることを魔王は知っていた。魔界で決まり事をつくり、それによって統治してきた魔王は、この世界の法律や因習に敬意を払っている。
環境にやさしいエコ生活はお手の物だ。
いつしかモヤモヤは晴れ、明日への活力を漲らせながら帰路につく魔王。
だが、この時の魔王は、既にヒューマン世界の安穏にどっぷりつかっていたともいえる。
肩に飛んできたモノが、時空の割れ目から飛び出した中級レベルの小型魔物の群れであったこと、そしてそれらを無意識のうちに魔王の身体能力の一振りで屠ったことに、魔王は気づいていなかった。
それだけ、アクエ〇アスのスパークリングが美味しく、夢中になって飲んでいたのだ。
だがしかし、潤いの裏で、世界に不穏な空気が流れ込んでいた。
それは、魔王のせいでもあったが、そのことについては魔王はおろか誰もみな認識していない。




