14 帰りたい……
*
帰宅した魔王は真っ先に2階の自分の部屋に入った。
両親はまだ帰ってきていない。朝、あれだけ騒いだのに、息子の帰宅時間にいないのはどういうことだ。魔王は人知れずイラっとした。
イスに座った姿勢で、窓から闇空に視線を向ける。ギギッとイスが不快な音を立てた。
玉座が懐かしい。
あれはフカフカで座り心地の良いイスだった。ギギッなんて無粋な音も鳴らない。覇者だけが腰をおろせる。
窓枠で切り取られた夜空は、魔王の感覚ではそれでも明るかった。
魔界の空は日中薄ぼんやり、夜になると漆黒とも言えるほどの濃い闇に包まれる。隣人の表情を読みとることも難しいそうだ。(察知能力が鋭敏すぎる魔王には、闇の濃さと視界の明瞭さに相関関係はない)
魔王城から見晴らす夕闇が脳裏に過ぎった。巣に帰る全長2mを超す魔界鳥の群れ付きで。
「帰りたい……」
呟いていた。途端に、魔王はハッとする。
(何たる弱音! 吾輩は腰抜けになってしまったのでは!)
ヒューマンどものぬるま湯に毒された。魔王は己に喝を入れるべくキッと自室の黄ばんだ壁を睨みつける。転生前の碧人が貼った、髪を両サイドでそれぞれ束ねた水着女性のポスターに目がいきそうになりかけるも、不屈の闘志で目を閉じ、雑念を封じるように神経を集中させる。
窓から入る月光が、魔王の姿を壁に投影した。
そこには、角の生えた魔界の覇者の姿はなく、ヒューマン・大空碧人の姿が映っている。そのことに気づくことなく、いつしか魔王は眠りに落ちていた。
魔王をもってしても、復帰初日で疲れた……のかもしれない。お疲れちゃん、今夜ぐらいは、ね。




