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12 オーバーヘッドキック

◇◆◇◆


 グランド脇でスパイクを履き、練習着に着替えた魔王。あらためて部員達を見回した。


 シュート練習だ。

 2人1組でパスを繋ぎながらゴールに向かい、どちらかがシュートをする。1年生から3年生までの総勢40名弱が同じ練習をしていた。

 ゴール隅に突き刺さるシュートを放つ者もいれば、ゴールキーパーの真正面へ打ち損じる者もいる。


 魔王は生ぬるさを感じた。

 ボールに威力がない。

 ちょうど早坂がシュートした。ボスっと間の抜けた音とともに「あーっ」と彼の腑抜けた声が聞こえた。ボールはゴールバーの遥か上をヒョローっとすっ飛んでいく。何人かの部員がゲラゲラと笑った。

 弛緩した空気が漂う。


 緩みは弱み。軍の士気劣化と敗北に繋がりかねない。

 魔界にいた頃、軍の視察をしていた魔王は、たるんだ雰囲気を醸しだしていた魔物達を処刑した。手遅れになる前の見せしめだ。

「もう一回お願いっ。イクまでお願いっ」

 なよなよっとした声で早坂が再度のシュートを希望する。誰かが早坂に「さっさとイッちまえ」とグラウンダーの速いパスを蹴った。

 ボスッ

「あーっ」

 我慢の沸点を超えた魔王は、右手を胸もとの高さまであげていた。幾多の命を奪った炎系打撃呪文を唱え――られなかった。魔力が不足している。指先に、ぽっ、とライターの火みたいなものが灯った程度だ。


 ちっ。


 魔王は大地を削らん勢いで駆けだした。

「パスっ!」

 呆気にとられた表情で魔王のダッシュを見る部員達。しかし、キャプテンの藤堂が反応してくれた。魔王に向けてパスを蹴る。

 ぐーんと伸びるボールは足で合わせるには高い軌道を描いていた。頭で合わせるヘディングシュートが常道だろう。それでも、ボールのスピードが速い。合わせること自体が至難のパスだった。


 魔王は跳んだ。

 魔界ならば『跳ぶ』どころか空を『飛ぶ』ことさえ可能だった。本気の跳躍をすれば、ヒューマンになったとはいえ校舎を一跨ぎぐらいはお手の物だ。

実際、マジ跳び寸前のところで自分がヒューマンに転生していたことを魔王は思い出した。まだ身バレは、したくない。

 ゆえに抑えたジャンプを披露する。それでも充分に高い。

 魔王はくるりと身体を捻った。

 脳裏にはイメージが描かれていた。事前学習の動画や、『キャプツバ』と略されているサッカーマンガで見た動き。


 オーバーヘッドキック。


 宙で無重力を実演するように、魔王が頭を下、足を上の、逆さまの姿勢でボールをキック。夕陽の残滓が魔王のスパイクを輝かせた。

 バスッ、とゴールネットにボールが突き刺さる。

 常人ならば背中から地面に落ちるところを、魔王は身体を捻って両足で着地する。猫のようなバランス感覚だ。


 部員達が歓声をあげて魔王のもとへ駆けてくる。

「うをおおおおっ! スゲーよおまえ!」

「翼君以外でオーバーヘッドなんて初めて見たよ。あ、おまえも同じ苗字『大空』か」


 やんややんやと部員達は騒ぎ、練習中断は20分近くに及んだ。

「入院中に何してたの?」と聞かれるも、魔王は「別に」と顔をプイと背けた。


 途中、部室で遭遇したロリ顔栗色髪が、人さし指どうしをツンツンさせながら部員達の輪に加わる。

彼女は碧人が入院中にサッカー部に入ったマネージャーで、名を古手川マミと言うそうだ。


 古手川マミ。

 魔王よりも3歳上の3年生。すなわち、1年留年している一19歳だ。

 魔王はあっという間に彼女に関する情報を部員から集めた。スパイ並みの技能で。

 彼女の趣味はお人形遊び。性格は大人しく、主張しない性格。住所は学校から徒歩5分の戸建て住宅で1人暮らし。いつも指どうしをツンツンくっつけ合うのが癖。妖精が見えるとのたまう不思議ちゃん。


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