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セカンドコンタクト狂騒曲

作者: 稀Jr.
掲載日:2025/12/19

 人類は既に一度、異星人とのファーストコンタクトを終えていた。人類がこの宇宙でひとりぼっちでないことを確認できたことは幸いであった。宇宙探索の歴史において、いや空想 SF 小説であっても、最初の異星人との遭遇が実に慎重であることを示すものは多い。だから、人類はあらゆる手段を講じて、異星人からのメッセージを受信するように苦心していた。

 しかし、異星人からのメッセージは簡素な実に簡素なものだった。


「ちょっと、今は忙しいから後で連絡するよ」


 端的に訳せばこういう意味であった。"ちょっと" というのはどのくらいの時間を示しているのか、"後で" というのはどれくらい後なのか判断が付かないが、人類の歴史上の文字や言語体系からすると、そうでしか読み取れないものがあった。この地球で言えば、"ちょっと" や "後で" は、1日なり1週間なりの時間を示す。つまりは、地球が回転している間であり、今でいえば 24時間を単位とすることがわかる。

 しかしだ。明らかなことに異星人は地球には住んでいない。メッセージの出所を慎重に調査した結果、太陽系外からの発信であることは確実だった。木星にアンテナを置き、火星にアンテナを置いて確認したのだから確かである。太陽系外からの電波が、木星、火星、地球の順番に届いたのだから太陽系外からのまさしく異星人からのコンタクトである。

 しかも、"後で連絡する" というメッセージを残しているのだから、一定の時間経過の後に次なるメッセージが続くと考えられる。だが、どれくらい "後" なのかが判別がつかない。時間にして、数日なのか、数週間なのか、それとも数年という単位かもしれない。

 地球外生命の探索を専門とする研究者が、いつも忙しく立ち働いていることを考えれば、異星人の研究者も忙しいには違いない。そこは間違いないんだろう。アンテナから電波を発したときが "今" であり、そのときは、実に "忙しい" 状態に違いなのだ。

 メッセージを送り出した電波が、どのような方式で送られているのか、そのメッセージを作るにはどれくらいの検討の時間が掛けられていたのか不明である。しかし、我々の地球に届き、この人類に届くメッセージを作るためには、それなりの時間をかけていたと思われる。

 つまり、今回のファーストメッセージが慎重に作られていたならば、メッセージを送った "今" から、"後で" までには、それなりの時間がかかると考えられるのだ。

 そう、もし、手軽にメッセージが送られていたとしたら、もっと早くファーストコンタクトのメッセージを受信できただろう。

地球外生命の探索プロジェクトは実に30年ほどは続いている。その間にメッセージらしきものは、ひとつも捉えることはできなかった。いや、実はとられていたかもしれないが、このような簡素な言葉、簡素でわかりやすいメッセージを受けたのは初めてだ。

想像したよりもあっけなく、解読ができてしまったのだ。

 つまりは、日本語だったのだ。


 天文学者たちは議論する。


「このメッセージだが、何故、日本語で送られてきたかわかるだろうか?」

「いちおう、国連の共通語としては英語になっている。そこに異星人とはいえ、それにあわせて言語を選ぶのが筋というものじゃないだろうか?」

「いや、そんなことはないだろう。そもそも、異星人が地球の言葉を学習していたとする証拠もない。たまたま、英語でもフランス語でもなく、日本語を傍受して学習して、返したのが日本語というだけではないだろうか」

「でもなぁ、日本語を選ぶ理由がわからないな。そういう意味では中国語やロシア語でもいいんじゃないだろうか?」

「いや、我々が考える以上に、異星人は地球の文化を研究している可能性がある。日本のアニメや漫画、ゲームなどを傍受していて、一番解釈がしやすいらしい日本語を選んだとも考えられる。アニメや空想SFになじみのない国に送ってしまったら、別な混乱を起こす可能性だってある。そうなると、できるだけ許容範囲の広いところにメッセージを送るのが良いのではないだろうか?」

「そうか? ウルトラマンの怪獣のように攻めてくることも考えられるだろう?」

「いや、そこは宇宙怪獣じゃなくてウルトラマンのほうだろう。ほら、ウルトラマンだって日本語を喋るじゃないか」

「それは、まあ、そうだが。いや、ウルトラマンは喋らない。じゅわっとか、どわっとか云うだけで、それは喋っているとは違うんじゃいか?」

「いや、それでも、宇宙警備隊の隊員はウルトラマンの気持ちを察しているわけだから、そこは解っているのだろう。つまりは、心でコミュニケーションが取れているいうことだ」

「心...のコミュニケーションは別として、少なくとも異星人からのメッセージは日本語として伝わって来たわけだ。それは、気持ちを伝えるという漠然としたものではなくて、明らかに日本語だ。それは間違いようがない」


 しかし、言語学者は異論を唱える。


「ちょっと待ってください。確かに、このメッセージは日本語のように見えます。しかし、それが日本語とは限らないのです」

「え? それはどういうことですか?」

「コミュニケーションの差異です。異星人がメッセージを送って来た。このメッセージの中身が日本語であったとしても、それが伝えるものそのままであるとは限らないのです。言葉が使われるとしても、それが一意の意味を示しているとは限らないのです。それぞれのバックグラウンドがあるから、どうしてもずれが生じててしまいます」

「うむ、そうなると。この "ちょっと" とか "今" とかは時間を表しているとは限らない、ということでしょうか?」

「そうですね。現代の日本語で判断すれば、それは時間をあらわす言葉になるのですが、異星人が時間のためにこの単語を使っているとは限らないのです。例えば...」

「例えば?」

「時間ではなく、空間そのもの、空間の距離を表しているかもしれません。ちょっと、という距離であったり、後でという距離を示している可能性も否定できません」

「距離ですか。なるほど。時間と距離が交換されている、異次元からの発信かもしんないということでしょうか?」

「はい、そうです。異星人を現空間にいると考えれば、三次元プラス時間という概念となりますが、異次元からのメッセージだとすると、時間も混ぜた形での四次元と考えることができます。その場合は、XYZ軸と同じくt軸、つまり時間も交換可能な距離と言えます。そうなると、"今" が現在時間ではなくて、現在位置を示し、"ちょっと" が時間的な差異ではなくて、距離つまりは、異星人がいるところの位置とこの地球との距離を示していると言えるのです」

「そうなると "後で" というのは?」

「これも時間で考えると、時間が経過したらと言う意味での "後で" ということになりますが、これを空間として考えれば、"ちょっと" という距離の感覚と、その延長線上にある "後で" という解釈が可能になります。いえ、我々人類にとっては異星人の日本語メッセージを解釈することになるのですが、異星人にとっては、それは自然な言語体系ということです」

「なるほど...そうなると "連絡する" もひょっとすると解釈が違っている可能性があるのですね」

「ええ、そうです。日本語で言えば、連絡するは時間的な軸での "後から" 連絡をする。つまりは、人類がメッセージを受け取ることになるのですが、ここでは空間の延長戦上にある "後から" と置き換わるわけですから、"連絡する" がコンタクトをとるというのとは限らないのです。場合によっては、到着する、という意味かもしれません。時間の概念ではなく、空間の概念と置き換わるのですから、空間的に、つまり配置座標が、ここ、つまりは地球に到着するということかもしれません」


 科学者たちの議論は尽きない。次なるメッセージが時間を意味するのか、空間を意味するのか、そもそも日本語として解釈していいのか、はたまた次のメッセージは英語で来るかもしれないのだ。


 そこに、セカンドメッセージが届いた。これも日本語だった。

「いや、まったくもう、いつも忙しい忙しいって言い訳ばかりなんだから。もう、後なんてないからねッ」



「えええ???」科学者たちは驚いた。意味がわからなかった...ようなわかったような。

 二度と、地球にメッセージは届かなかったのである。


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