第49話 懇願
忍たちと最終的な打ち合わせを行い、警察庁を出た頃には外は既に暗かった。
律が送るというのを断って、護の運転で岩槻の自宅まで車で帰ってきた。久々に戻った事務所は、大して長くも住んでいないのに、懐かしささえ覚えた。
「やっと帰ってきたって感じですね」
護の腕が伸びてきて、直桜を抱き寄せた。
「二週間も直桜に触れられないのは、拷問でした」
「ん……、俺も」
言いかけた言葉を飲み込む。
代わりに護の匂いを思いっきり吸い込んだ。
唇を指がなぞって、舌が誘うように舐め挙げる。無意識に口付けを受け入れて、口内が犯される。
「んっ……、ふ……」
久しぶりの刺激が甘くて、声が否応なしに洩れる。
(やばい、このままだと、流される)
名残惜しい唇を押しのけて、体を離した。
「とりあえず、シャワー、浴びよ。俺、汗だくだから」
「そうですね。今日は久しぶりに二人でゆっくり過ごしたいですし」
残念そうにしながらも、護が納得してくれた。
申し訳ない気持ちを抱きながらも、直桜は護を風呂に押し込んだ。
〇●〇●〇
「訓練、お疲れさまでした」
互いにシャワーを浴びてすっきりしたところで、乾杯する。
とはいえ、酒が入ると記憶が飛んでしまう直桜はノンアルコールで我慢する。
「護、なんで眼鏡しているの? 視力、回復したんだよね?」
護は今現在も鬼の常態化を維持している。完全なる鬼化とは異なり、鬼の力を右手だけに集中する方法なのだという。その副産物として視力が戻り、体躯が少しだけ大きくなっている。
「伊達眼鏡ですよ。その、眼鏡をかけていたほうが、直桜は見慣れているでしょうから」
「眼鏡かけてる方が、俺の好みだからってこと?」
護の顔が赤らんでいるのは、酒のせいではなさそうだ。
直桜は息を吸い、静かに吐き出した。
立ち上がって、護の腕を取る。
「護、来て」
「え? でも、飲み始めたばかり……」
「いいから。俺の部屋に来て」
腕を掴み上げて、無理やり立ち上がらせる。
部屋に入ると、ベッドに腰掛けた。
「ここに、座って」
自分の足元を指さす。
護が戸惑いながらも言われた通りに傅いた。
指で顎を掬い上げる。
されるがままに上向いた唇を食む。
「な、お……? んっ」
絡めとった舌を吸い上げて、噛み付く。
血の味が鼻に抜けるのを感じながら、息をする間も与えずに貪った。
「ぁ、はぁ…はぁ…」
息を荒くする護の口から唾液が零れ流れる。
それを舌で救い舐めて、護の顔を抱き締めた。
(俺の方が全然、覚悟が足りてない。キスしただけで、こんなに愛おしくなってる)
死なねばならない事実も、充分に怖い。
しかし、それ以上に、護に自分を殺させなければならない現実が、怖かった。
護の腕を掴んで、ベッドに引き上げる。押し倒す体勢になって、護を見下ろした。
「直桜……?」
困惑した表情の護を見詰める。
「護、いざとなったら迷わず俺を殺して。何があっても、絶対だ。たとえ護が、俺を誰より愛していても」
護が目を見開いた。
だがすぐに、納得したように目を細めて、微笑んだ。
「ああ、そういうことでしたか。直桜の方から熱烈なキスをくれるなんて、らしくないなと思いました」
護の手が直桜の頬を撫でる。大事なものを包むように優しく指が滑る。
次の瞬間、腕を掴まれて体が反転した。
押し倒していたはずの体が押し倒されて、護の目が直桜を見下ろす。
「見縊らないでください。私は、直日神の惟神の鬼神、瀬田直桜の恋人ですよ」
唇が塞がれる。
鉄の匂いを残した舌が、直桜の口内を隈なく犯す。舌が絡んで唾液が溢れた。
「直桜を殺していいのは、私だけです。他の誰にも直桜を殺させたりしない。約束します、私の神様」
いつもより大きな手が、直桜の服を捲り上げる。
硬く芯を持ち始めた胸の突起の周りを優しく撫で始めた。
焦らすように周りばかりに触れる指がもどかしい。
護の足が直桜の股間をぐりっと押し上げた。
「もう勃ってしまいましたか。二週間、我慢しましたからね。沢山、してほしいですか?」
耳を舐めながら囁かれて、頷く。
気持ちが良くて、体が小さく震える。
「では今宵は、快楽で殺して差し上げましょうね。私の愛しい神様」
言葉が直接、脳に響く。
涙目のまま素直に頷いて、次の刺激を待ちわびた。




