表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仄暗い灯が迷子の二人を包むまで(R18削除改訂版)  作者: 霞花怜(Ray)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/64

第18話 御褒美

 小さな子供が泣いている。それが自分だと何となく気が付いた。

 知らない土地で、いつも周囲にいる大人は何故かいなくて、心細くて動けなくて、一人で立ち尽くして泣いていた。


「君、どうしたの? 迷子になっちゃったの?」


 少し年上の男の子が、手を握ってくれた。

 その手はとても冷たかったけど、泣いて熱くなっていた手を冷ましてくれた。

 その冷たさが妙に安心できた。


「わからない。急に誰もいなくなっちゃって」


 しゃくり上げて上手く話せない直桜の手を掴んで、木陰に連れて行くと、男の子がしゃがみこんだ。


「じゃぁ、ここで俺と一緒に待っていよう。迎えが来るまで、一緒にいるよ」


 直桜は頷いた。

 待っている間、男の子はいろんな話を聞かせてくれた。

 酒呑童子の話、桃太郎の話、百済の妖怪の話。どれも鬼の話ばかりで、鬼目線の昔話はかなり新鮮で面白かった。

 話している間、男の子はずっと直桜の手を握っていてくれた。


「ねぇ、僕たち、友達になれるかな。また会えるかな」

「君はどこに住んでいるの?」

「僕は、滋賀の集落。今日は特別に、京都まで連れてきてもらったんだ」


 男の子の表情が、少し暗くなった気がした。


「君は、京都の人? この辺りに住んでいるの?」

「うん、俺はずっと京都だよ」

「僕、友達がいないんだ。だから、仲良くしてくれたら、嬉しいな」

「俺でいいの? 俺は化野の……」

「君が良いよ。君のお話、面白いから、もっと聞きたい。それにね、手を握ってくれて、すごく安心する」

「そっか。そんな風に言われたことないから、俺も嬉しいよ。もっとずっと、握っていようね」

「うん。ねぇ、君の名前はなんていうの? 僕はね」

「直様! 申し訳ありません。清祓が手間取ってしまいました」


 とても焦った顔で、付き人が戻ってきた。

 直桜の隣にいる男の子を見付けて、顔を引き攣らせた。


「直桜様に触れるな、卑しい鬼の子が! 最も清浄な気を纏うお方に穢れが寄って良いはずがない」


 男の子が咄嗟に手を離した。

 直桜の不安げな表情に気が付いた男の子が、慌てて手を伸ばす。

 直桜がその手を握る前に、付き人が男の子を蹴飛ばした。

 大の大人に思い切り蹴り飛ばされた男の子が遠くまで転がった。


「やめてよ、あの子は僕の友達だよ。痛いことしないで」


 泣きながら、懇願した。


「アレとは友達にはなれません。直桜様の御傍に寄って良い者は、我々が選びます。穢れに触れてはなりません」


 強く手を引かれて、歩かされる。

 男の子を振り返って、ずっと見ていた。

 蹲りながら手を伸ばしてくれているのが見えて、涙が止まらなかった。


(良かった、生きてた。ごめんね、本当に、ごめん。もう一度出会えたら、ちゃんと友達になろうね。絶対絶対、また会いに来るから。その時は名前を教えてね)


 カーテンの隙間から差し込む光と、鳥の囀り。いつもの朝の音がする。

 目を開くと、天井が滲んで見えた。


「あれ、俺、泣いてる……」


 遠い昔にあったのかもしれない出来事は、曖昧過ぎて妄想か夢だと思っていた。

 友達すら自由に選ばせてもらえなかった幼少の自分が作りだした、妄想の中の思い出なのだろうと。

 子供の頃は自分がして良いこととダメなことがわからなくて、よく泣いていた。


「あの子って、実在すんのかな」


 あれが現実で、彼が実在するのなら、どうか幸せになっていて欲しいと思った。

 頭が痛くて、寝がえりを打つ。化野が眠っていた。


(えっと、何で一緒に寝てるんだっけ。昨日は確か、そうだ。清人と川越に行ったんだった)

 

 帰ってきて、化野と一カ月記念の乾杯をしてからの記憶がない。

 

(この頭痛は二日酔い? そんなに飲んだかな。つか俺、相変わらず酒弱すぎ)


「ん……」


 小さく声を上げて、化野が顔を傾けた。

 向こう側に仰け反った項に赤い跡を見付けた。


(え、ナニコレ。キスマークみたい。もしかして、俺が付けた?)


 急にドキドキしてきた。そっと手を伸ばして、跡に触れる。

 閉じていた目がほっそりと開く。慌てて引っ込めようとした手を掴まれた。


「寝込みを襲ってくれるんですか。嬉しいですね」


 まだ寝ぼけた目で、化野が直桜の手に口付ける。


「え? や、その。項に、跡、付いてて。俺が付けたんだよね、それ」


 細めた目が、直桜を見詰める。

 寝起きのせいかやけに鋭くて色香の漂う目付に、どきりとする。


「他に誰が付けるんです? 昨日、直桜が吸い付いて離さなかったんですよ」


 腕を引かれて顎を掴み上向かされる。

 雄みが強い顔に見下ろされて、胸の鼓動が早くなっていく。


「こんなにお酒に弱いのでは、心配になりますね。お陰で昨日もお預けです」

「お預……はんっ……ふ……」


 唇を食まれて、舐め挙げる。

 犯す舌が舌を絡めて、上顎を何度も舐める。


(なんか、いつもより深……、護、まだ寝ぼけてる)


 くちゅくちゅと水音が響いて、やけに耳に付く。

 体を引き寄せられて、熱いものが触れた。

 服を握り締める手を解いて、熱く滾った股間に手を伸ばした。

 布の上からでもわかるくらいに、硬く脈打つものを、そっと撫であげる。


(熱い……、もっと触れてみたい)


 服の中に手を入れて、何度も撫でる。

 緩く握って上下に動かすと、化野の腰がビクリと跳ねた。


「直桜っ……、そんなに触ったら、我慢できなっ……」


 必死に耐える化野の顔が、可愛い。

 もっと困らせてみたくなる。


「だって、すごく熱くて、はち切れそうだから」

「当然でしょう。何回、据え膳お預けされているとっ」

「祓うまでシない約束だろ?」

「昨日は、いいって……」


 切なく潤んだ瞳が直桜を見上げる。

 心臓が大きく高鳴った。


「じゃぁ、我慢した護に御褒美、あげるよ」


 布団の中にもぞもぞと入って、化野の服を降ろす。


「え⁉ 直桜!」


 化野の制止は聞かずに、素直に熱く滾るソレに悪戯を仕掛ける。

 漏れる声を聴きながら、溢れる熱さを口で受け止めた。

 顔を上げると、化野が呆けた顔で直桜を見下ろしていた。


「飲んだんですか?」

「飲んだよ。飲まなきゃ、意味ないじゃん。俺の体内に入らないと清祓出来ないし」

「こんなに淫靡な浄化ってあります?」

「神事って元を辿ると存外エロいよ。巫女の神楽だって大昔は裸で踊ったストリップなんだから」


 化野が直桜の口元を指で拭った。


「今の直桜の顔が、何よりエロい……。涙と唾液と俺ので、ぐちゃぐちゃ」


 嬉しそうに微笑む化野の顔も、色香を纏っている。

 大きな手が顔を包んで、直桜の口元を舐め挙げた。


「護、鬼化して、また大きくなってる」


 置いた手の下が熱く滾っている。


「その顔見て、興奮しない訳ない」


 吐き出す吐息まで熱い。


「じゃ、する?」


 耳元で囁いて、息を吹きかける。

 大きな肩が、びくりと震えた。


「……する。ちゃんと優しく、慣らすから」


 頬張るように口付けられて、抱き締められる。

 熱い舌が這う度に、直桜の気持ちを甘やかに溶かしていく。

 約束は、やっぱりもうどうでもいいと思った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ