忘れない、大事な約束
姉さんを起こさないよう、泣くのを精いっぱいこらえながら、ボクはコウの話を聞く。双子の名前は、お姉ちゃんがサナで、弟はソウタ。ボクが抱っこしているのはソウタだって。その名前は赤ちゃんが生まれる前から姉さんとふたりで相談して決めたので、生まれた子供がソウの生まれ変わりだと知っててその名前をつけたわけじゃないらしい。
ボクがあんなに騒いだのに、姉さんは未だにぐっすり眠っている……赤ちゃんのお世話、よっぽど疲れるんだろうな……けど、サナは先に起きて寝台の上で寝返りをうちはじめた。寝台から落ちてしまいそうな寸前でコウはその子を抱っこして、ボクの隣に座る。
「わー! うー!」
ソウタは表情も喃語もかすれたような静かさだったけど、サナは抱っこされたままでもじたばた動くし、活力に満ちた元気な声を出す。
「双子なのに、全然違うね。この子は姉さんに似てそう」
「ソウタが静かなのは引きこもりの俺に似てとか思ったろ……」
「それは普通に被害妄想だって」
静か、にも色々あるんだから、行動的じゃないからって直結でコウに似てるなんて思わないってば。
「ソウタがソウの生まれ変わりなら、サナはたぶん、イリサの生まれ変わりなんだろうな。ナナも言ってた。サナが生まれて抱いた時、何か感じたって」
「イリサって、ソウと一緒に旅してた……母神竜様だっけ?」
「ああ。ナナは母神竜の体だった」
なるほどね。コウの漠然とした思い込みだけじゃなくて、根拠もあるってことなんだ。
「でも……ソウ達が消えて、まだ二年くらいで、もう生まれ変わりって。そんな出来すぎた偶然ってある?」
「偶然だったら、ないだろうな。運命だったらありえる」
「運命……」
この世で起こる全てのことは、世界が始まった原初から終わりまで全て決まっていて、誰にも変えられない。それが、運命。かつてはボク達を散々に苦しめてきた概念だった。
「ソウの、神竜としての能力は……『自分以外の神竜とした約束は絶対叶えられる』だったんだ。ソウは最後、俺に、『生まれ変わってまた会える。約束する』って言った。だから最速で俺の近くに生まれ変わってくるし……イリサとも、約束したのかもしれない。一緒に生まれ変わりたいとか、そんなようなことをな」
「ボクも……ソウと約束したよ? ソウと一緒に、外の世界を歩きたいって」
「ソウが神竜に成ったのは、ノアと別れた後だから、その約束は無効だろうな」
そもそもの話、ボクは神竜といっても格下だから、ソウの能力の対象外かもしれない。コウはそう言うし、ボクもそうかもしれないって思う。
「だったら……ソウとした約束は、ボクが叶える。この子達と姉さんを自由にして、一緒にどこへだって行けるようにするんだ」
「……」
「……あのさぁ。そこで黙ってないで、『俺も』とかなんとか言わないの~? 頼りにならないんだから、も~」
指摘したって反論も出来ず、苦虫を噛み潰したみたいな顔で押し黙る。これでもボクの兄なんだからしっかりして欲しいよね、まったく。
まぁ、ボクは外で頑張るけど、姉さんにも子供達にもコウが必要なんだから。適材適所、コウには中で頑張ってもらうってことで構わないけどね。
「あお」
「ん? ソウタ、何?」
「あおいいろって、ノアのかみのけとめ、みたいなの?」
「そうだね」
王宮の床、壁の材質も、窓から眺めるクラシニアの街並みも、全体的に砂の色で、青い色ってめったに目に入らない。クラシニアは太陽竜信仰一色の国だから、絨毯に使われる意匠も赤い色が中心だ。
空の色だったらいつでも青いけど、「青い色」にも色々あるからね。同じ青だって、海の色と空の色はちょっと違うでしょう? やっぱり、王宮の中だけで一生を終わらせるなんてもったいないよ。
ソウタがそんなことを言っていたから、ボクはテラや他の仲間との旅の途中、立ち寄った市場で青いリボンを見つけた時にお土産としてそれを買った。クラシニアの人達は男女問わず、髪の毛をリボンで結ぶのが伝統だから。ソウタもサナも喜んでくれた。
「むー。ひまだなー」
同じ日に生まれた双子でも、クラシニアでは先に生まれた方が王位につくって決められている。お姉ちゃんとして生まれたサナは、幼い頃から「女王になるための特別な勉強の時間」がある。姉さんに付き添われての勉強時間、遊び相手のいないソウタは暇を持て余していた。
この日、ボクはコウと一緒にソウタの話し相手になっていた。けど、コウは自分から話しだすような性格じゃないし、ソウタも「クラシニアの外の話を聞かせて欲しい」って言うから、ボクが話している時間が圧倒的に長いのだった。
「ノアって、ソウタのもうひとりのおとうさんみたいだね」
そこで、「サナとソウタの」って言わないところが、なんだか見透かされちゃってるみたいだなぁ。双子なのに差をつけちゃいけないし、申し訳ないけど、ボクにとってこの子はやっぱり特別だ。
「ソウタがおとなになったら、ノアにもおやこうこうする」
「親孝行?」
「ノアがこまってたら、たすけてあげる。おとなになるって、そういうことだよね?」
「……ソウタ」
ボクのそばにいたソウタをちょっと離れて見守っていたコウが、ちょいちょいって手招きして、呼び寄せる。糸で引っ張られるみたいに、ソウタはよちよち歩いていく。
「大人になったら俺達の役に立つとか、恩を返すとか、そんなことは考えなくていい。俺達……ナナやノアより先に死なないこと。これ以上の親孝行なんかないからな」
「そうなの?」
「そうだよ」
「ふーん……わかった」
ソウタは部屋の隅っこにある、子供達が遊ぶために置いてある小さなテーブルのところへ向かう。そこに座って、筆記帳に何か書き忘れた。
「何を書いてるの?」
「こうかんにっき。サナがいないとき、『わすれちゃいけないだいじなこと』があったらかくって、やくそくしたんだ」
いわく、サナがソウタのいない時に同じような出来事に遭遇したら、彼女も同じ筆記帳に書いてるんだって。




