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前世で報われなかった神々が人間に転生して幸せな恋をします。【GRASSBLUE last 碧草日記】  作者: ほしのそうこ
終わりと続きの物語。sideノア 【Mirror dragon Noah】
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ノアと方舟

 それからしばらくは、ボクの仕事で各国へ出向き、テラは様々な国を見て回るだけ。そんな過ごし方だった。六年も剣闘士やっていてしかも常勝、懸賞金の貯えに余裕があるんだから、長い休暇と思って気軽に楽しんでいいんじゃないかなってボクは思うんだけど。テラは「働き口も見つからず遊んでいるだけ」って思っていそうで、後ろめたそうな顔で日々過ごしていてちょっと気の毒だった。


 いくらしばらくは遊んで暮らせる状況といったって終生それで賄えるほどかっていうとわからないし。言葉を話せないらしい彼が、失ってしまった剣闘士という職以外で今後、何をどうして生計を立てていけばいいのか。妙案が浮かばなくて不安なのかもしれないなぁ。








 海を越えて別の大陸へ向かう必要があって、港町を目指していた。広い平原を乗合馬車で長期間移動してきて疲れたので、辿り着いた港町でしばらく体を休めたいなぁ。そう思いながら、テラと一緒に商店街を歩いていた。






「道行く皆様~、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」




 商店街の真ん中の広場で、大道芸人が曲芸を披露していた。すでに人だかりになっていてボクの背では背の高い人達やお子さんを肩車しているお父さんに遮られて全体像が見えない。最後まで芸を見たらお金も払わなきゃいけないし、通り過ぎようと思った。




 けど、テラはまんまと「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」の呼びかけに引っ掛かって、足を止めて見ていた。ボクより背も高いし、見えてる範囲が違うんだろう。最初はぼんやり眺めていただけだったのに、観衆が「おおっ」っと歓声を上げる都度、どんどん見世物に感心と関心を強めていくのが見ただけでわかる。




 芸が終わって演者がお代を求めて歩いてくると、おれいの気持ちが差し出した金額に現れていた。小銭をあげる人が大半の中、高額のおさつをテラは渡している。その後のテラの進路を思えば、その人がテラに与えた影響っていうのはあまりに大きくて、決して高すぎるおれいではないと思う。






 テラは言葉が話せない分……っていうのは不適切だろうか……体を動かすのは得意そうだ。人並み外れて。あの日見た大道芸人のような動きが自分にも出来るかもしれないと思ったのか、そういう道を志すことにしたみたいだった。




 でも、話せないだけじゃなく文字も書けないテラは、彼ひとりだけじゃいくら楽しい見世物が出来たってお客さんを呼びとめられない。そこでボクの出番。テラの代わりに、あの「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」を言ってあげるんだ。






 ボクがいるからこそ、テラは思い浮かんだ夢を諦めずに済んだ。そう思うとボクは自分がちょっと誇らしかった。あの時、「一緒にいよう」って誘うことを諦めないで良かったんだなぁって、自分自身の選択が間違ってなかったって自信も持てたんだ。








 目指すと決めたからって、テラもボクも大道芸の世界のことは何にも知らない。そこで、実際にやっている人の姿を見て勉強しようと思って、ボク達はあの場所へ行くことにした。




 アルディア村。コウやフウの生まれた故郷。ソウにとっても、物心ついてすぐから大人になるまでずーっとそこで暮らしたのだから、同じ感覚かもしれない。十一月のお祭りでは、大道芸人が集まって自慢の芸を披露するんだ。辺境の小さな村だっていうのに、大都市での似たような祭事に引けを取らない規模で盛り上がるらしいんだ。






 ボクの知っている影の世界のアルディア村ではお祭りが開催されないから、「本物のアルディア村の風景」が見られると思うと、ボクはとても楽しみだった。森を貫くような広い一本道。そこを埋め尽くしそうに大勢の人が行き交い、狭苦しいくらいなのに息苦しさは感じない。ひと月に一日限りの華やかな喧噪と、笑い声に満ちている……。






 最初は素直にその空気を楽しんでいたけど、だんだん……合点が行ってきて、切なさがこみあげてきてしまった。




 コウがどんなに頑張って、見た目だけそっくり同じアルディア村を作っても、フウは満足出来なかった。それは、フウにとってのアルディア村が、こういう場所だったから。そういうことだったんだ。






『普通の人より長く生きられたから……生きられた時間の長さだけ、普通の人より恵まれてたなんて言いきれないと思う』




 だからソウは、ボクを外の世界に出したいって、思ってくれたんだ。




 グラスブルーは別名、「神々の揺篭」とも呼ばれていたらしい。亡くなった神竜様が眠り、死後の人が集い安息に過ごせる場所だから。でも、いくら「現実世界と同等の広さの影の世界」だとしても……そこはやっぱり本当は「世界」じゃなくて、限られた空間……「方舟」でしかなかったのかもしれないね。






 いつの間にかボクは立ち止まっていて、少しだけ身をかがめてボクの顔を見上げるように窺っていたテラと目が合う。よっぽどな顔をしていたのかな、心配そうな目で、申し訳なくなる。せっかくこんな、楽しい場所に来ているのに。




「……ごめん、ボクはここに来るの初めてだけど。大切な人の故郷がここだって、聞いていたからさ。こんなに賑やかで、楽しそうな場所だったんだね。めそめそしないでちゃんと味わわなきゃね」




 ちょっと気恥ずかしくはあったけど、ちゃんと事情を説明した。テラはなんだか神妙な顔をして、何か考え始めたみたいだった。自分に気持ちの余裕がなかったせいかもしれない。この時だけは、ボクは彼が何を思っていたのか、想像しきれなかった。



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