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前世で報われなかった神々が人間に転生して幸せな恋をします。【GRASSBLUE last 碧草日記】  作者: ほしのそうこ
女王特権で推しと結婚するなんて、はしたないですか?(後)sideグレス
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グレスの前世

 (わたくし)はあらゆる準備を整えて、黒曜石の冷たい寝台に身を横たえました。この寝台に刻まれた魔法紋は数分後、私の体の時間を永久に留めます。二十歳になれば神罰に蝕まれるこの体を、その寸前に時を止めることで延命し続けるための措置です。




「イルヒラっ……このことバラしたら、あんたが大人になる前に殺してやるからね……っ!」


「するわけないじゃん……バカエリシア……」




 姉様は私の服の胸元を掴み、その上で泣きじゃくっていました。涙も涎も鼻水も滲み込んでしまいますが、私にはもはや気になりません。もしかすればこれから永遠に別離してしまうかもしれない姉様の名残がそこに刻まれるみたいで、ちょっと嬉しくすらありました。




 ヒー君は私には触れず、跪き泣き暮れる姉様の後ろに立ち、彼女の肩を掴んだまま控えめに泣いていました。彼はまだ幼いですが、これから立派な大人になり、姉様を支えて下さる方になるはずです。実の妹をこのような形で失わなければならない姉様を支えようと、自分は泣くのを最小限に堪えているのでしょうね。




「ぅ、ウイシャ……もし、あんたが今後目覚めないとしたら、それはあたしがしくじったせいだから……あたしを恨んで、いいから」


「恨むわけがないじゃない……姉様は、私がここにいるから、自由になれないのに……」




 この場所に安置して私の命を繋ぎとめるために、姉様はこの国……グランティスに属していなければならない。彼女は闘神なのだから、自由に世界を渡り歩いて、ひとりでも多くの強者と闘うというのが本来あるべき姿なのに。




「次に起きたら、あんたは誰より自由に……好き勝手して、楽しく生きるのよっ? ……わかったわねっ」




 ……そうね。そう出来たら、どんなに……最後にそう、返事をしたかったけれど。その時きっと、私の時間はもう止まっていたのでしょう。










 窓から差し込む朝の光に、わたくしはそっと起こされました。




 眠りに落ちる寸前に、ふたりで力を合わせてふかふかの羽毛布団を引っ張って、その中に身を寄せたのを思い出します。わたくしは、彼の引き締まった左の二の腕を枕にして夜を越したみたいです。






 シーちゃんもヒー君も、きっと、誰よりも。スーちゃんが幸せになることを願ってるよ。




 いつか、ナナ様がおっしゃっていました。それを自分が保証するとまで。




「誰より、自由に……好き勝手に……」




 ええ……本当に。ナナ様のおっしゃっていた通りだった、みたいですね。






 早速というわけではないですが、わたくしは未だ眠りの中にいるのでしょうテラの、鎖骨のすこし下あたりの胸に触れてみました。う~ん、あらためて、カチカチです。人の体というものは鍛えればこんなにも引き締まるものなのでしょうか。




 長きに渡って憧れてやまなかった体に、このように触れて……まごうことなきはしたなさ、ですが、この体に憧れたであろう数多の方々を差し置いて自分がそうしているという事実に……何とも言い難い多幸感を感じてしまいました。わたくしの中にこのような醜い感情があったとは、なかなかに受け入れ難く。




 ですが、先ほど見たあの夢は、そんなわたくしを認めてくれたような気がしました。自分勝手でもいいのだと、応援してくれているようにも思えました。






 さすがに直接、無遠慮に触れられたら、そう間もなくテラは目を覚ましました。寝ぼけてとろーんとした目のままで、少し訝しげにわたくしを見ます。




 一応、同じ行動をお返ししようとしたのでしょうか。わたくしの鎖骨の下あたりを撫でて、ちょっと驚いたような顔。わたくしはくすくすと小さく笑み溢し、




「わたくしの体、柔らかいですか?」




 そう訊ねます。テラは感心したような顔でこくこくと頷きます。その遠慮のなくなった動作は、十年前に初めて出会ったあの頃をちょっと思い出して、嬉しくなります。彼はまだまだ世間慣れしていなくて、かわいらしかったなぁ。




「テラの体は硬いですね。これまでのあなたの努力がそのまま形になっていて……素敵です」




 目をぱちぱちとしばたたかせて、わたくしの言葉を頭の中で整理し直しているような気がします。いくら想いを伝えたといっても、これまでの十年間の印象と現在のわたくしとの印象に溝があるのかもしれません。




 テラは一糸まとわぬわたくしの体を布団の中で抱き寄せました。体のあちらこちらの柔らかさを確かめてみた、のだと思います。わたくしも彼の体を感じまして、……そんなことをしてしまっては、そこで終われるはずがないですよね。せっかく目覚めたというのに昨夜と同じことを繰り返して、事後の心地よい疲労感に身を任せて、揃って二度寝してしまったのでした。

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