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前世で報われなかった神々が人間に転生して幸せな恋をします。【GRASSBLUE last 碧草日記】  作者: ほしのそうこ
女王特権で推しと結婚するなんて、はしたないですか?(後)sideグレス
13/26

想いを告げる夜

 その日は、わたくしがひと月後には、二十五歳の誕生日を迎えようかという時期でした。




 ノア様からお知らせをいただいて、わたくしは王宮の一角……エリシア様とイルヒラ様が埋葬された、ボーディーの大樹の根元に立っていました。




 烏滸がましいとは思うのですが……もし、ナナ様のおっしゃることが正しいのでしたら。エリシア様。イルヒラ様。どうか、わたくしを見守っていてください。無力なわたくしですが、せめて、勇気だけは出せますように。そう、お祈りさせていただきながら、約束の時を待っています。






「グレス様~、お待たせしました~」




 テラ様を伴って現れたノア様は、いたって気安い、常と変らない態度でした。わたくしにとっては一世一代の場面なのですが、と思って、わたくしも苦笑してしまいます。ちょっとだけ緊張がほぐれたような気がしますので、それもノア様の心遣いだったのかもしれませんね。




 そんなノア様とは対照的に、テラ様には困惑の色がありありと浮かぶ表情でした。わたくしも気付き始めていたのですが、テラ様は自分の内面が表情に出やすく、隠すのも苦手なようです。無理もありません。言語で自分を伝えられないのですから、表情まで隠してしまったら、自分の心を伝える手段を失ってしまうではないですか。無意識に、本能的に、それが習慣づいたのであろうと想像するのは容易いこと。




 ノア様は事前に、今日、ここでわたくしとテラ様がお会いする理由について彼に説明してくださっています。だからこそ、そんなお顔をなさっているのでしょう。十年も前から面識はあった、けれどそれ以上の関係ではない相手から、このような場を設けられたという唐突な出来事に。




「つまり、お見合いってことですよね。わかりました。テラにもそう伝えておきますね」




 今日のためにノア様とふたりだけで相談した際、彼はそう言いました。改めて言われると確かにそうですが、わたくしはそこで初めて気付きました。ノア様を仲人にした縁談とするならば、それほど格式ばった行為のようにも思わなくなり……。




 わたくしは、女王として、とか、世継ぎを産むため、とか。そういった要因はとりあえず忘れたことにしておいて、ひとりの女としての自分の気持ちを伝えることにしたのです。






「……驚かれ、ましたよね。ごめんなさい……わたくしは、十年前から、あなたをお慕いしておりました。テラ様は剣闘士の仕事はお好きでなかったと思います、けど……それでもひたむきに取り組むあなたの姿に、憧れて……あなたのように強くなれたらと思いながらも、わたくしは現状に甘んじて、ちっとも強くなんてなれなくて……」




 ナナ様に言われた通り、この日のためにずっと考えていたのに、いざとなったら用意していた愛の言葉がなかなか出て来なくて、不要な言葉ばかり並べてしまうのは何故でしょう。誰かに愛されたいのならば、「こんなダメなわたくしですが、愛してくれませんか」なんて、まったくもって無駄な情報ではありませんか。




 後ろ向きなことを言っている間は思わず、地面の芝生へ目を落としてしまっていました。わたくしは面を上げて、テラ様をまっすぐ見つめました。




「でも……でも、今だけは。勇気を出して伝えなければと思ったんです。わたくしは……あなたが、好きです。この気持ちを伝えないまま、他の誰かのひとになるなんて、嫌だって……」






 たとえテラ様がわたくしの気持ちを受け入れてはくれないとしても。この気持ちだけは伝えたかった。伝えもしないで諦めて、世の中の流れに身をゆだねて誰かの妻になるなんて。わたくしの……グレス・グランティスの生涯はそれで良しとは思えなかったのです。




「よろしければ……わたくしと共に、同じ一生を生きてくださいませんか? わたくしは、あなたと……テラ様と共にありたいです。これから、ずっと……」




 テラ様はいつの間にか、最初のような戸惑いの表情ではなく、しぃん……と静かな、波紋すら立たないような動かぬお顔でわたくしを見下ろしていました。




 そう間もなく、意を決したように一度だけ頷くと、すぐ目前にいたわたくしを抱き寄せました。力強く、抱きすくめます。




 さすがに全力ではないでしょうが、腕の力は強く、息をするのを忘れてしまいそうにわたくしは硬直していました。テラ様は常勝の剣闘士。一見すると細身に見えますが、服の下にはしっかりと筋肉が根付いていたはずです。とても、硬く、引き締まった体であったのだと、わたくしは全身で感じていました。






 これは、どうしたらいいのでしょう……わたくしは考えましたが、何のことはないとすぐに気付きました。わたくしはテラ様にとってはあまりにも唐突に、彼をこのような場に呼び立てて、一方的に気持ちを伝えました。テラ様の行動が唐突に思えようと、お互い様ではないですか。




 わたくしは素直に身をゆだねて、体の力を抜きました。十年来、憧れてやまなかった、力強い彼の固く引き締まった体を思うさま感じさせていただくことにしました。






「……グレス様のお気持ちが本当なのか、確かめたかったんだと思いますよ。こうしてみても、グレス様が逃げないか」




 成り行きを見守ってくださっていたノア様が、安堵の溜息を深く深く吐きだしてから、そう進言します。




「テラは言葉で伝えられないから、こうやって体で表現するしかないんです。言いたいことがあるのに言葉にできない。ボク達には想像するしかないけど、いくら想像したってわからないくらいに、辛い場面がたくさんあったんだと思うんです」




 テラ様はわたくしの肩に両手を置いて少し身を離し、あらためて、わたくしの顔を見ます。未だ、どこまでわたくしの主張を信じて良いものか、考えておられるのだと感じました。




「ボクはほとんど喋らない母とずーっと一緒にいたので慣れてます。何も話さなくたって、そばにいる間、彼女がいつもボクを想ってくれてたのを知ってるから。それと同じで、テラがボクを必要としてくれるのがわかるから、一緒にいて楽しいし安心するんです。グレス様は本当に、何も話さない彼とずっと一緒にいて安らげますか?」




 この十年、わたくしは遠目に彼を眺めていただけです。いくらずっと見つめていました、応援していましたと言っても、それは遠く離れた彼の凛々しい姿。私生活の、ありのままの彼と接したことなど、ほぼほぼありません。テラ様だけでなくノア様まで不安に感じてしまうのは、無理もないことでしょう。




「だから……とりあえず今晩、テラとふたりで過ごしてみてはいかがですか? たったひと晩、ふたりっきりで間が持たないようじゃ、とても一緒になんてなれないでしょうから」




 ノア様は、自分はグランティスの街の夜遊びを楽しんできますので~、と、テラ様に手を振り、去っていかれました……。

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