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前編

『クリスマスに会えないって時点でわからないかな?』


 冷え切った文章は、彼の声で再生された。彼の体温を持った声。彼の吐息が混じった声。うなじに触れただけで、鎖骨に触れただけで私の耳まで赤くなってしまう、彼の声。


『毎日会いたいと言ってくれるキミが好き、そう言ってくれたあの頃と、今の私はなにが違うのですか』


 長らく既読はつかなかったが、数日経ってたった一言、


『俺以外の人と幸せになってください』


 敬語で返ってきたことで、心が完全に離れてしまっていると知った。私はいつも文章では敬語だったが、彼はそうじゃなかった。その口調で、優柔不断な私を引っ張って言ってくれる気がしていた。『ください』なんて言われたことがないから、彼の声で再生できない。


 でも、別れるというのに、私の幸せを祈ってくれているなんて、やっぱり優しい人なんじゃないかな、なんてことも考えてしまう。


 

「素材が違うからなぁ」


 雑誌でここのところ見かける、ドイツ人のモデルがいる。美しい。言葉・行動・生き様ひとつひとつに、ダイヤモンドがキラキラと追随しているようだ。彼女が使っているコスメや、髪型、食事なども真似てみてはいるが、何ひとつ似ていない。『悶絶級天使』とは誰がつけたのか知らないが、一文字も無駄がない彼女のための単語。


 満員電車に乗っていると、他人の携帯の画面が見えてしまうことがある。たまに彼女を待ち受けにしている人や、動画を観ている人を発見したりするが、前々から知っていた自分としては、人気が出て嬉しくも、悲しくもある。自分だけのものにしたかった。


 今年のクリスマスイヴとクリスマス当日は、不幸なことに休日である土日らしい。これを喜んでいる人々は、一度、ご自身の宗教を確認してから喜んでほしい。キリストさんのとこですか?


 とはいえ、今の自分にお金をかける生活は嫌いじゃない。結婚した友人や職場などで、こういうヤツがいるんだけど、一度どう? みたいなのは何度かいただいたが、丁重にお断りした。


「ララ様ぁ……」


 同い年だというのに、ただ憧れるだけの存在。でもそれだけで明日の活力になるなら、誰にも迷惑をかけていないなら、それでいいじゃないか?



『私の内側も愛してほしかったのに』


 激情のこもった文章は、誰かの声で再生された。よく彼女の声を知らなかった。彼女の顔も、髪も、スタイルも好きだった。僕好みで、他にこうしたらもっと可愛いかもって、そう考えるのが好きだった。


 僕はなにも返信することが出来なかった。彼女が好きというより、彼女に貼られたラベルが好きだったことに気付いたから。顔と髪とスタイルが取り外し可能なら、誰かに取り付けて中身が違っても愛することが出来ると、そう気づいてしまったから。


 数日経って、ひねり出した文章は三文字。


『ごめん』


 でも、いつまでも既読はつかなかったから、削除して僕の心の中にしまい込んだ。



「自然な血色を出したいなら、ベースはこっちの方がいいかな。パウダーが反射して、ツヤ肌を演出してくれると思う」


 高校生くらいから、女子が学校にメイクをしてくるのを見て、カッコいいなと思っていた。毎日早起きして、自分が輝くための努力をしていて。部活もせず、ただなんとなくで生きている僕からしたら、眩しい存在だった。

 

 そして、気づいたらメイクの専門学校に通い、卒業し、今はアシスタントとしてではあるが、メイクアップアーティストへの道を歩きだしていた。最初は懐疑的な目を向けてきた友人達も、僕がプロとして仕事をしているとなると、自身の彼女へのプレゼントの相談や、その彼女を連れてきてレッスンなんかもさせられたり。僕としては、言い方は悪いが練習になるので、実はありがたい。


 いつしか、仕事のためにと、女性に混じって服やコスメを見るのも抵抗がなくなった。海外のモデルもチェックして、ひとりで買い物なんかも行ける。店員さんからしたら、彼女へのプレゼントだとでも思われているのだろう。真実は、自身のインスピレーションを活性化するためなのだ。彼女なんて。

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