なんでいるの?
そして、送別会兼歓迎会の準備が整った。
ずらりと美味しそうなお料理が並んだテーブル。
味見でおなかは満たされているので、私としては甘いものが食べたいところ。
が、デザートは、エリカ様が指示をとばしていたので、今日も今日とて砂糖が少なめ……。
今日くらいは、がっつり入れて欲しかったです、エリカ様……。
ということで、そろそろ、参加者たちがやってくる時間になった。
といっても、護衛騎士と神官の人たちは、仕事の合間に順番に顔を出すと聞いているから、たいした人数にはならない。
ひとつ心配だったのは、ノーラン様が来ると言っていたこと。
来たら面倒なことになりそうだと思っていたら、なんと、運のいいことに、2日前から他国へ行っているらしい。
魔獣で困っているようで、緊急で助けを求める要請があったから。
近隣諸国の中でも、ぬきんでて魔力のあるノーラン様。
なので、そういうことはよくある。
困っている国には悪いけれど、今回ばかりは、いいタイミングで呼びつけてくれたと思う。
なんて考えていたら、今日の主役のひとり、アリシアさんが一番にやってきた。
手には大きな紙袋を持っている。
隣にはジャック。今日は、私はエリカ様のお屋敷にずっといるから護衛は必要ない。
ということで、アリシアさんの護衛として動いていたジャック。
というのも、アリシアさんは早朝から実家のある町に戻っていたから。
そして、ジャックも大きな紙袋を持っている。
「すごいお料理! 美味しそう!」
と、目を輝かすアリシアさんとジャック。
が、私としては、アリシアさんとジャックの持っている紙袋に目が釘付け。
だって、私の心が叫んでいる!
きっと、素敵なものが入ってるって!
ということで、アリシアさんに近づき、紙袋をじっと見つめる。
私の視線に気づいたアリシアさんが笑い出した。
「さすが、ルシェルね。鋭いわ」
「食い意地がはってるだけじゃ……」
と、あきれたように言うのはジャック。
なんとでも言って。
目の前にお宝があるので、何を言われても問題なし!
アリシアさんが笑いながら紙袋から出してくれたのは、なんと、沢山の焼き菓子!
「うわああ!」
思わず叫び声をあげた私。
「婚約者のブルーノから預かってきました。皆さんで食べてくださいって」
そう言いながら、エリカ様に渡すアリシアさん。
「まあ、こんなに沢山! ありがとう! ブルーノ君、今日、来られたら良かったのにね」
と、エリカ様が残念そうに言った。
そう、アリシアさんの婚約者ブルーノさんはケーキ屋さん。
「今は忙しくて、お店が休めないみたいで。せっかく、お誘いいただいたのにすみませんって謝っていました」
「とんでもないわ。人気のお店だもの。それに、アリシアが手伝いだしたら、ますます繁盛するわね」
と、エリカ様が断言した。
「そうなったらいいんですが……」
アリシアさんが頬をそめ、恥ずかしそうに微笑んだ。
「甘いな……」
と、つぶやくジャック。
うん、確かにね。
なんだか、アリシアさんから流れる空気が一気に甘くなった気がするわ。
それにしても、なんて、優しい婚約者さんなのかしら。
おかげさまで、手薄だったデザートが一気に充実して、私は幸せ!
そうだ!
お礼の気持ちをこめて、アリシアさんとブルーノさんお二人におそろいのエプロンを買って、全力で癒しの力をこめてからプレゼントしよう。
少しでもお仕事の疲れが癒え、ますます美味しいお菓子を作りだしてくれるように。
そう、甘いものは人を幸せにするものね!
我ながら良いことを思いついて、にやけてしまう。
フフフフフ……。
と、その時、屋敷の入り口からざわついた声が聞こえてきた。
あ、誰かきたわね。
そう思って、開け放たれた扉のほうを見ると、……え!?
なんで、いるの!?