招待されていません
私はロジャー様に群がっている銀色の動物たちにむかって、両手をむけた。
そして、魔獣にするように、手のひらから守護の力をだして、銀色の動物たちをくるんでいく。
そうすれば、魔獣だったら眠る。
ただ、ノーラン様の魔術で生まれた幻だから、どうなるかはわからない。
でも、やってみると、私の髪が入っているだけあって、銀色の動物たちが、私の守護の力に簡単にくるまれていった。
(眠りなさい)
心の中で訴えかけると、たちまち、動物たちが動かなくなった。
「ノーランの幻術にも効くなんて、ルシェルの守護の力はさすがに強いわね。じゃあ、後は私にまかせて!」
と、エリカ様が叫んだ。
エリカ様は、ものすごい勢いで、両手からきらきらとした浄化の力をだしはじめた。
なるほど……。
エリカ様は、ノーラン様への怒りをぶちまけてるのね……。
ということで、さようなら、銀色の動物たち。
もともと30分で消えるあなたたちだったけれど、偽エルフのせいで、消え去る時間が早まってしまったわね。
エリカ様の渾身の浄化で、銀色の動物たちは完全に消えてしまった。
人間以外で部屋に残ったものは、私のハンカチから偽エルフの使い魔に転身した蝶もどきだけ。
エリカ様はその蝶を鋭い視線で見て、悔しそうにつぶやいた。
「それも浄化してやろうと思ったのに……。実体があると、さすがにノーランの魔力が強すぎて、短時間では無理だったわ」
「えー、エリカさん、怖ーい! ぼくとルシェの子どものルーハーを殺そうとしたの!?」
また言ってる……。
「その変な例えはやめて、ノーラン!」
と、私は、きつい口調で抗議した。
が、何故か、華やかな笑みをみせた偽エルフ。
「フフ。ルシェに叱られるの好きー! ノーランって呼ばれるのも、嬉しい!」
そう言って、私の頭をなではじめた偽エルフ。
「こら! うちの娘にむやみに触るな。この変態が!」
ロジャー様がノーラン様の手を叩き落した。
「ああ、ロジャー君がたたいたー! いたいよー! 暴力、はんたーい!」
わめきだす偽エルフ。
あの……、さっき、銀色の動物たちを使って、散々ロジャー様を痛めつけていたのは誰でしたっけ……。
収集がつかなくなってきた時、神官見習いのアランがエリカ様を呼びにきた。
来客だそう。良かった……。
吉報をもたらしたアランが天使に見えた私。
あとで、大事に隠している激甘のお菓子をひとつわけてあげよう。
「私は負けていないわ。ノーランの優勝は認めない!」
と、エリカ様は捨て台詞を残して去って行った。
「俺の優勝は常にエリカだ!」
という、謎の発言を残して、ロジャー様もエリカ様に従って出て行った。
ふー、やっと静かになったわ……。
あとは、偽エルフに速やかにお帰りいただこう。
と思ったら、ノーラン様が、今度はルビーさんに近寄った。
「で、ビーさんは、その隠し事、どうするのー? まさか隠し続ける気?」
と、挑発するように聞く。
「ノーラン様。だから、誰にだって隠し事はありますから!」
「あのね、ルシェ。お菓子を隠してる、みたいな、どうでもいいことと、ビーさんの隠し事は全然違うからねー」
あ、やっぱり聞こえてたのね!
さすが、エルフもどき。耳もいいのね。
じゃなくて、私のとっておきの隠し事が、どうでもいいことですって!?
「数日、待ってください。自分の口から言います」
真剣な顔で宣言するルビーさん。
「いや、だから、隠し事なんて言わなくていいわよ、ルビーさん」
私はあわてて止めた。
が、私の言葉をまるっと無視して、ノーラン様とルビーさんのやりとりが続く。
「じゃあさ、ビーさんの歓迎会でどーんと発表したらー? うん、おもしろそう!」
「わかりました」
覚悟を決めた顔でうなずく、ルビーさん。
「ルビーさんの歓迎会は神殿関係者だけでするから、ノーラン様は招待されていません。というか、絶対にしません。関係ないですからね?」
と、釘をさしておく。
「え、ぼく、呼ばれてなくても行くよー」
「いや、やめて」
と、思わず本音がでた。
ノーラン様とエリカ様が一緒にいたら、また、面倒なことがおこりそうだもの。
「ルシェがひどーい。それに、アリシアさんとも、もう少しでお別れだから、行きたーい。そうだ、結婚祝いに、ぼくのとっておきの品物を持っていくから、行ってもいいよね? アリシアさん」
「うわあ、お祝いくださるんですか? 嬉しい! ノーラン様からのとっておきの品なんて何かしら!? 楽しみにしていますから、どうぞ来てください」
満面の笑みで喜ぶアリシアさん。
アリシアさん、簡単に品物につられたわね……。