豹変
「エリカとノーランが同じ数だということは、当然エリカが優勝だな。そもそも、ノーランより、エリカのほうが断然早く完了したしな。比べるまでもない!」
と、嬉しそうにロジャー様が言った。
「残念、ロジャー君。やっぱり、優勝は、ぼくだよー」
「はああ!?」
「何故だ!?」
見事に、エリカ様とロジャー様の声が重なった。
「早さは関係ないもんねー。それに、ぼく言ったよね。優勝はぼくの独断だって。それに、ロジャー君の暴言のせいで、エリカさんは減点いっぱいされてるし。はなから、ぼくと勝負にならないんだよねー。だって、減点分をひくとゼロ……ううん、マイナスだし? だから、この中で順番をつけるとすると、エリカさんは最下位になりました!」
と、楽しそうに宣言した偽エルフ。
その変な点数で表すところ、誰かさんを思い出すわね……
そして、怖すぎて、エリカ様とロジャー様の顔が見られない……。
すると、エリカさんが、ものすごく低い声で淡々と言った。
「ノーラン。意味がわからないから整理させてもらうわよ。仮に私が最下位だとしたら、何故、多数決をとったの?」
「うーん、ふたりがうるさいから? 多数決とったら、納得するかなーって思ったの。ほら、ぼく、すごく優しいし、気遣いができる人なんだもん。だよね、ミケラン?」
と、何故かミケランさんに問いかけた偽エルフ。
いきなりの流れ弾に驚くミケランさん。
だが、さすが、偽エルフに魅了されている忠実なしもべ……じゃなくて、部下。
「もちろんです! ノーラン様はとてもお優しくて、気遣いもすばらしいんです! さすが、魔術院始まって以来の偉大な魔術師長ノーラン様です!」
ミケランさん……。
いくら相手が大魔王であろうとも、嘘はダメ。
気遣いどころか、ノーラン様が他人を気にしているところなんて見たことがないわよね?
「つまり、多数決をとったことは、まるで意味がなかった……という認識でいいのかしら?」
エリカ様の口調がやけに静か。
これは、荒ぶる前の静けさね……。
思わず、身構えてしまう私。
が、怖いもの知らずの偽エルフは満面の笑みで答えた。
「うん、そういうこと!」
次の瞬間、偽エルフに飛びかかったロジャー様。
「エリカを侮辱するなー!」
そう言って、小柄な偽エルフの体をつかみ、放り投げたロジャー様。
が、偽エルフは床に倒されることはなく、逆にふわっと体が浮いた。
そして、そこへ走りこんできたのは銀色の馬。
そう、ノーラン様の魔石からでてきたあの動物だ。
銀色の背に軽やかに乗ったノーラン様。
「もう、乱暴だよね、ロジャー君。でも、気をつけてね。この銀色の動物たち、ぼくを害する者は許さないと思うから。ねえ、みんな」
そう言って、銀色の動物たちに向かって微笑みかけたノーラン様。
見た目だけでいえば、白馬に乗った王子ならぬ、銀色の馬に乗ったエルフ。
そう、まさに人外。
無駄に幻想的な美しさを放ちまくっている。
ミケランさんなんか完全に見とれているもの。
「はっ! そんなまやかしの動物たちなど、痛くもかゆくもない! それより、ノーラン。エリカへ謝れ!」
怒りまくるロジャー様。
いつもながら、エリカ様が関わると沸点が低すぎる。
いくら、騎士の中の騎士ロジャー様といえど、冷静じゃない状態では、偽エルフに遊ばれるだけなのに……。
「へええ。なら、そのまやかしの動物たちでも結構やれるところを見せようっと。みんな、行け!」
ノーラン様の掛け声とともに、銀色の動物たちがロジャー様に群がっていった。
しかも、あんなにかわいかった動物たちがやけに攻撃的で、つついたり、たたいたりしている。
「いやあ、うさぎちゃんが怖い!」
アリシアさんが悲鳴をあげた。
見ると、ぴょこぴょこ歩いて、あんなに、かわいらしかったうさぎが、ロジャー様の顔面に飛びけりをしていた。
もちろん、ロジャー様は手で払ったりしているが、何故か、手がすりぬけている。
「その子たちは、ぼくの魔力で見せているだけだから、ロジャー君は触れないよー」
と、のんきに言うノーラン様。
「なら、どうして、こいつらは俺に触れられる? 卑怯だろうが!」
頭をつっつく鳥を払いのけながら、ロジャー様が叫んだ。
「うん、それは、ぼくの魔力で、ちょちょいと手を加えてるんだー」
さすが大魔王……。
が、私も偽エルフに怒りがわいてきた。
だって、あんなにかわいかったうさぎの、豹変した姿を見せるなんてひどすぎる!
そうだわ。
確か、この動物たち、私の髪の毛も入ってるから銀色だって偽エルフは言ってたわよね。
つまり、私の力も効くんじゃない?