聞き捨てならない
消えた魔石の中から、銀色の煙のようなものが出てきたかと思うと、次々と何かを形作っていく。
え、もしかして、動物……?
目の前のテーブルでは、小さな銀色のうさぎがとびはねているし、頭上では、銀色の鳥が何羽も飛んでいる。
「あら、銀色の子犬? おすわり!」
早速、指示をだすエリカ様。
「うわ、こっちは、銀色のリス? かわいいわあ!」
楽しそうに声をあげるアリシアさん。
「こっちにはユニコーンがいます! さすがは、ノーラン様!」
と、歓声をあげるミケランさん。
銀色のユニコーンらしき隣には、銀色の馬が一緒に歩いている。
ロジャー様は、その馬を感心したように見て、言った。
「へえ……。銀色ではあるが、本物そっくりだ。しかも、本物の馬と違って、疲れないだろうし。騎士のための馬をノーランに魔力でだしてもらうか……」
「あ、それは無理ー。これ、ぼくの幻影の術だから。30分もすれば消えるよー。題して、幻の動物園! しかも、ぼくの髪とルシェの髪を使ってるから銀色なの! どう、素敵でしょう?」
にこにこしながら説明した偽エルフ。
……うん?
今、聞き捨てならないことを聞いたような?
「あの、ノーラン様? 私の髪を使ったって聞こえたんだけど、気のせいかしら……?」
「ううん。気のせいじゃないよー。さっき、魔力でルシェの髪を一本切ったの。勝手にもらってごめんね?」
「いや、ごめんねじゃなくて……。そもそも悪いと思ってないわよね、その顔!?」
「顔? うーん、でも、ぼく、こんな顔しかできないから」
そう言って、こてんと首をかしげる。
自分の美しさを十分わかっている偽エルフ。
あざといわ……。
そして、偽エルフは皆に向かって、あざとい笑顔を振りむきながら、高らかに宣言した。
「それでは優勝者を発表します! ぼくです!」
「はああ!? ちょっと待ちなさい、ノーラン! 魔石にこめた力で測るのよね? 魔力で何かをだすなんて、ずるいじゃない!?」
と、エリカ様が吠えた。
「エリカの言う通りだ! ノーランはずるいぞ! 魔石にこめた力だけで考えたら、エリカが優勝だ!」
負けじと、ロジャー様も吠える。
「なら、みんなに聞いて、多数決にしようよ。まずは、ぼくが優勝だと思う人!」
「はいっ!」
大きな声とともに、何故か両手をあげているミケランさん。
手の数で勝負じゃないですよ、ミケランさん……?
「あ、私も! この銀色の動物たち、とってもかわいいもの!」
そう言って、迷いのない顔で手をあげたアリシアさん。
そう、アリシアさんは無類の動物好き。
そして、アリシアさんほどじゃないけれど、私も動物は好き。
だから、正直、ノーラン様の魔力にはひかれている。
でも、あのぎらついたエリカ様の手前、絶対にノーラン様に手をあげることはできないわ……。
アリシアさんって、見た目、ほんわかしてるけれど、実のところ、心は鋼なのよね。
まわりがどうあれ、自分の意志をつきとおす人だもの。
うらやましい……。
「で、ぼくもいれて3人ね。じゃあ、次、エリカさんが優勝だと思う人!」
ものすごい勢いで手をあげたのは、もちろん、ロジャー様。
ミケランさんに負けじと、これまた、両手をあげている。
いや、そんなところで張り合わなくても……。
そして、エリカ様の視線に負けて、私もそろりと手をあげた。
「えー、ルシェったら優しい。本心では、ぼくに手をあげたかったのに、エリカさんが負けそうだから、かわいそうに思って、エリカさんに手をあげたんだー」
「は!? 負けそう? かわいそう?」
エリカ様の額にぴきっと青筋がたつ。
どっちの言葉もエリカ様には禁句よね。
本当に、偽エルフは余計なことばかり言うわ。
私は、あわてて説明をした。
「違います、ノーラン様。魔石にこめられたエリカ様の力は完璧だと思ったので、エリカ様に手をあげました」
「えー、嘘だー。だって、さっきから、ルシェの目、ずっと、ぼくの出した銀色のうさぎを追いかけてるもん。ぼくの魔力にひかれてるんでしょ?」
うっ……。
バレてる……。
だって、銀色のうさぎよ?
長い耳をぴょこぴょこさせて、テーブルをはねてるのよ?
目を奪われても仕方ないわよね!?
私は開き直って、言った。
「ウサギに目を奪われているのは事実ですが、エリカ様に一票です!」
「良く言った、ルシェル!」
と、満足そうにうなずくロジャー様。
「ふーん、ま、いっか……。じゃあ、ビーさんはどっちなの?」
手をあげていないルビーさんにノーラン様がたずねた。
すると、ルビーさんは赤い瞳をきらめかせて、即答した。
「ルシェルさんです」
「あのね、ビーさん、聞いてなかったの? 今は、ぼくとエリカさんのどっちかで手をあげてもらってるんだけど?」
「だから、ルシェルさんです。私にとったら、優勝はルシェルさんです」
強い視線でノーラン様を見て答えたルビーさん。
「はああ、もう、なんなの? すごい変わりようだよね? また、すごく面倒そうなのが、ルシェに懐いちゃって、やだやだ」
「ノーラン、あなたもだけどね。……それより、優勝はどうするの? つまり、私とノーランは同数ということよね?」
エリカ様が勝負師の目でノーラン様を見る。
こんな、どうでもいい勝負に真剣すぎて怖いですよ。エリカ様……。