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怖いものなし

ルビーさんを困らせているノーラン様を注意しようとして、はたと気が付いた。


ノーラン様がさっきからルビーさんにやけに絡んでいるのは、気になるからじゃない?

だって、小さい子どもがわざと意地悪をして、気をひいているみたいだもの。


ノーラン様はエルフみたいな容姿で、やたらめったら好かれる。

ノーラン様に一目でメロメロになる人は、嫌と言うほど見てきた。

でも、ノーラン様のほうから、こんな感じで初対面の人に絡んでいくのを見たことがないもの。


もしかして、……ひとめぼれとか!?

でも、普段は、自分から好きになったことがないから、接し方がわからなくて、子どもみたいになっているとか?


きゃー! 


あ、でも、ルビーさんには、筆頭聖女と王太子様の婚約者を引き継いでもらわないといけないから、ノーラン様の失恋は確定ね……。 


なんて、考えをめぐらせていたら、ノーラン様が私のほっぺたをつまんで、ぐにょーんとひっぱった。


「ちょっと、いひゃい!」


私が怒ると、満足そうに微笑んだ偽エルフ。


「ルシェが、ろくでもないことを考えている顔をしてたから、つい、ひっぱっちゃった。ごめんね?」


やっぱり、偽エルフの言動は意味がわからないわね。


ルビーさんが私に思いつめたような顔を向けた。


「あの……、ルシェルさん。さっき魔術師長様が匂わされたように、私は……隠し事をしています。本当の私がどうであっても見捨てないでくれますか……?」


赤い瞳が、ものすごく不安そうに揺れている。


とっさに、私はルビーさんの両手をにぎり、力強く言った。


「もちろんよ! 隠し事ぐらいで見捨てるわけないわ! それに、私だって、隠し事はしてるわよ」


「へえ、ルシェが隠し事ね? でも、どうせ、ルシェのは、バレたって、たいしたことないんでしょ? ビーさんのと違って」

と、口をはさんできたノーラン様。


ルビーさんの瞳が更に不安そうに揺れ始める。


本当に偽エルフは、余計なことしか言わないわね。

こうなったら、とっておきの私の隠し事を披露して、ルビーさんに安心してもらわなきゃ!


本当は言いたくないけれど、ルビーさんに気持ちを軽くしてもらいたいものね。


私は声を落として、ルビーさんにささやいた。


「あのね、私の隠し事は、エリカ様に内緒で、町一番、甘いと言われているお菓子をノアに買ってきてもらって、非常用として部屋に隠してるの」


ルビーさんが驚いたように目を見開いた。


ほら、これが、とっておきの私の隠し事よ! 

すごいでしょう!? 


エリカ様にバレたら、即刻、没収だもの。


途端に、ブハッと隣で吹きだした偽エルフ。


え? 

ものすごく小声でささやいたから聞こえてないよね?


「なに、その隠し事? エリカさーん、ルシェったらね……ンン」


偽エルフの口を夢中でおさえた。


「ルシェルの隠し事と私が関係してるの?」

と、エリカ様。


私は偽エルフの口をおさえたまま、エリカ様に言った。


「いえ、全く、関係ないですよ。同年代のルビーさんにだけ話せる、少女らしい隠し事ですから。みんなに知られるのは恥ずかしいです」


「わかったわ。じゃあ、聞かない。それより、優勝がだれかを早く決めなさい、ノーラン!」

と、きっぱり言ったエリカ様。


良かったー。なんとか誤魔化せたわ。


その時、手のひらに、ぬめっとした感触がした。


「きゃっ! なに!?」

私は、あわてて、偽エルフの口から手をはなした。


恐る恐る偽エルフを見ると、満面の笑みを浮べている。


「ルシェの匂いがするから、ちょっと味見してみた! あまかった」


は? 味見?


つまり、偽エルフは私の手のひらをなめたってこと!?

私は、即刻、ごしごしと手のひらを聖女の衣でふいた。


「ひどーい、ルシェ!」


「ひどくないです! 人の手を勝手になめないで!」


「ええ、なんでー? 口の前に、美味しいお菓子があったら、ルシェだって食べるよね?」


「そりゃあ、食べるけど……。じゃなくて、私の手はお菓子じゃないから!」


「あ、でも、味見できたから、ルシェの隠し事をだまっておこうかと思ったけど、そんなに嫌がるなんて傷つくな。やっぱり、しゃべっちゃおうかな……」


「うっ……、それはやめて」


すると、妖しげな笑みを浮かべたあと、私の耳元に口を寄せて偽エルフはつぶやいた。


「わかった。じゃあ、貸しひとつね……ルシェ」


なんで、そうなるのか不満がいっぱいだけど、偽エルフに秘密を知られた以上、逆らわないほうがいい。

せっかくの秘蔵のお菓子が没収されるのは嫌だから。


ということで、しぶしぶうなずいた後、ルビーさんに向きなおった。


「こんなふうに、私も、絶対にばれたくない隠し事をもってるの。だから、安心して、ルビーさん。あなたに、どんな隠し事があったとしてもルビーさんはルビーさんよ。私の大事な仲間だわ」


そう言ったとたん、ルビーさんが私の手をとり、嬉しそうに微笑んだ。

笑顔がまぶしい。


そして、ルビーさん、すごく、力が強いわね……?


そう思った瞬間、私の体はひっぱられ、ノーラン様の隣にぴたりと着地した。


「ちょっと、ルシェ。ビーさんに触っても触らせてもダメだって言ったでしょ?」


「あなたもよ、ノーラン。そんなことで魔力を使って、ルシェルを引き寄せない! それより、さっさと優勝を決めなさい、ノーラン!」


エリカ様のいらだちが爆発している。


「はいはい。もう、エリカさんって、どんどん、気が短くなってるよねー。もしかして、年だから?」


「おい、こら、ノーラン。もう一回言ってみろ?」


ロジャー様が憤怒の顔で、ノーラン様にせまる。


「あ、ロジャー君もおんなじだねー。こっちも年だから?」

と、のんきな声をだすノーラン様。


ちょっと、ノーラン様!? 


ふたりに向かって、なんて恐ろしいことを!

さすが偽エルフね。怖いものなしだわ……。


「俺のことはともかく、エリカを侮辱するなど許せん!」


ロジャー様がノーラン様につかみかかろうとした時、エリカ様の声が轟いた。


「やめなさい、ロジャー! そんなことをしていたら優勝の発表がどんどん遠のくわ! ノーラン、あなたの魔力をこめた魔石はもう見なくていいから、さっさと優勝を決めなさい!」


「えええ! ぼくのも見せたいー。……っていうか、見せちゃおうっと!」


そう叫ぶと、ノーラン様は指をパチンとならした。


次の瞬間、ノーラン様が魔力をこめた魔石がパーンと音をたてて、消えた。

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