私が許しません!
蝶に変えられてしまった私のハンカチ。
そんな摩訶不思議な状態になった私のハンカチを律儀に取り戻そうとしてくれたルビーさん。
どんな物でも、人にもらったものを大事にするのね。
なんていい人なの、ルビーさん!
猛烈に感動してきた私。
「ルビーさん、ノーラン様の使い魔にさせられたハンカチより、ずっと上等のハンカチをプレゼントするわ! あれは結構使いこんでいて古いの。あ、もちろん、しっかり洗っているから清潔よ。幸い、今日は、まだ使っていなかったしね。涙をふいても衛生面は大丈夫だと思うから、その点は安心して」
私の言葉に、ルビーさんは首を横にふった。
「いえ、私はルシェルさんの使い込んだハンカチをいただきたいです」
「まあ! ルビーさん……!」
思わず、感動してしまう。
「なんて優しいの! ルビーさんは私のお財布を心配して、気を使ってくれているのね! でも、大丈夫よ。こう見えて、聖女歴は長いから、上等なハンカチの1枚や2枚を買えるくらいのお金は貯めているの。だから、遠慮しないで!」
そう言って、どーんと胸をたたいた私。
うん、先輩聖女っぽいんじゃない!?
なんだか嬉しくなってきた。
が、そこで、くすっと笑ったのはノーラン様。
「ちびっこのルシェが、お姉さんぶってて、かわいい。……でも、ビーさんは高価なハンカチであっても、ルシェの使っていないハンカチは欲しくないんだろうね。ぼくと同じだね?」
そう言って、挑むように、ルビーさんを見た。
「ええ。ルシェルさんのお気持ちは嬉しいのですが、ルシェルさんが使いこんだ物をいただきたいです。なので、そのハンカチ、元にもどして、私に返してください。私がもらったものです」
ルビーさんが冷たい声でノーラン様に言い返す。
「はああ……。ルビー、あなたもなの? レオとノア、ノーラン、それにルビーが仲間入りね……。ほんとに、ルシェルのまわりには、なんで、こんな面倒な感じばっかり集まるの?」
エリカ様が嫌そうにつぶやいた。
あの癖の強い人たちに、ルビーさんが仲間入り?
というか、そもそも、その3人がまるで仲間じゃないのに、エリカ様、何言ってるのかしら?
なんて考えていたら、ノーラン様が勝ち誇ったように言った。
「ルーハーはね、ハンカチにしみついていたルシェの力と、ぼくの吹き込んだ魔力が交ざった、いわゆる、ふたりの子どもなの。ビーさんは、まさか、そのぼくたちの子どもを殺して、ハンカチに戻せって言うの? ビーさん、こわーい!」
は……?
いやいや、この偽エルフ、何を言ってるの……?
と思ったら、ルビーさんも不審なものを見る目でノーラン様を見ている。
「そのたとえ、さすがに気持ち悪すぎるわよ、ノーラン……」
顔をしかめたエリカ様が吐き捨てるように言った。
「その説でいくと、補強のため、ノーランの魔力を込めてもらった俺の剣も、ノーランとの子どもということになるのか!? やめてくれ! エリカ、この剣を浄化して、ノーランの魔力を消してくれ!」
ロジャー様が騒ぎ出す。
が、肩に蝶をのせたノーラン様には聞こえてもいないみたい。
ルビーさんに、いきなり顔を寄せたノーラン様。
ぎょっとしたように、ルビーさんが身をひいた。
「大きな隠しごとをしている人が、表面的に態度を変えたところで、なんだか信用ならないよね。そう思わない、ビーさん?」
そう言って、妖しげな笑みを浮かべたノーラン様。
大きな隠しごと……?
ほんとに、この偽エルフは何を言いだすのかしら?
ルビーさんに変に絡むのは止めて欲しい。
ほら、ルビーさんが困ってる。
せっかくできた後輩を困らせるなんて、先輩の私が許さないわ!




