どう思う?
もう一度、少しずつ手を動かしながら、魔石の重さの変化を確認してみる。
うん、やっぱり同じ……。
「エリカ様。この魔石、3種類の重さをがあるように思うんですけど……」
私の言葉に、エリカ様がうなずいた。
「ルシェルもそう思う? こんな魔石、初めてよね。ひとつの魔石のなかで、重さが違うなんて……。普通だったら、この魔石でいうと、ルビーの聖女の力は半分くらい込められているから、ルシェルの力で満たされた魔石に比べたら重く、アリシアの魔石に比べたら軽い、となるはず。でも、このルビーの魔石は重さが混じりあってない。聖女の力と、もともとの魔石の状態、そして、他のもうひとつの力の3種類に重さが細かくわかれている。だから、持つ場所によって、重さが細かく変動する。不思議な感覚なのよね……。ただ、ロジャーのように、聖女の力も魔力もない人が持つと、その違いがわからないみたい。軽く感じるということは、その3つの力の平均を感じ取っているんじゃないかしら?」
「へえ、さっすが大聖女様だね、エリカさん。いいとこついているけど、肝心のもうひとつの力が何か分からないと正解とは言えないよね。……っていうか、ゼロ点だよねー」
ちょっと、なんで、また、そんな煽るようなことを言うのよ!?
ゼロ点とか言うから、エリカ様の目が血走ったじゃない!?
と、思った時にはすでに遅く、戦いモードに入っているエリカ様が、ノーラン様を血走った目でにらみつけた。
「ノーラン! 絶対に答えて見せるから、おとなしく待ってなさい!」
すると、ノーラン様はふふっと笑って、怒るエリカ様に向かってお気楽に手をふった。
隣にいるロジャー様がノーラン様を射殺すように見た。
「その手、切り落としてやろうか? くそノーラン」
まるで呪いの言葉を唱えるように毒々しい言葉を吐き出すロジャー様。
もはや、王弟らしき気品は影も形もない。
「えー、こわーい、ロジャー君。ぼくを脅したから、また、エリカさんから減点になっちゃった!」
「なんだと!? どういうつもりだ、ノーラン!」
「はい、また減点! どんどん、エリカさんが優勝から遠ざかるー」
「黙って、ロジャー! 今、考えてるから、邪魔しないで!」
エリカ様に注意され、しょぼんとするロジャー様。
なんか、この流れ、デジャブみたい……。
ノーラン様が楽しそうに言った。
「じゃあ、エリカさん、考える時間はあと1分ねー。ぼく、待ちくたびれちゃうから。あ、その間、アリシアさんも持ってみるー?」
ノーラン様は、そう言うなり、私の手からひょいと魔石を取り上げ、ボールをパスするように、アリシアさんにポーンと投げた。
魔石は弧を描きながら、アリシアさんの手にふわんとおさまった。
すぐさま、ミケランさんが、「なんて、美しい魔力のカーブ!」と、拍手をする。
ノーラン様信者のミケランさん。
偽エルフが何をしても褒めるところが、エリカ様命のロジャー様に通ずるものがあるわよね……。
好奇心で目をきらきらさせながら、魔石を手の上で動かしてみるアリシアさん。
「あ、重さが変わった! でも、私には2種類の重さしか感じません。急に軽くなる時だけ、わかります」
「へええ。やっぱり、アリシアさんは聖女の力を知ってるから、ロジャー君と違って、その力を感じとれるんだね。おもしろーい!」
と、はしゃいだ声をあげるノーラン様。
そして、今度はルビーさんの方を見た。
「じゃあ、次はビーさんはどうかなー? 自分の力が入った魔石をどう感じるか持ってみてよ」
ノーラン様はそう言うと、アリシアさんの手から魔石をとり、今度は投げることなく、ルビーさんのところまで運んだ。
「ビーさん、しっかり両手をだしてね」
美しい笑み浮かべて微笑むノーラン様。
この笑みにころりと騙されて、両手どころか全身を差し出してしまいそうな人を、私は嫌というほど見てきた。
でも、さすがルビーさんね!
しっかりしてるわ。
だって、頬を染めるでもなく、全身で警戒しているもの。
真っ赤な瞳は強い光を放ち、ノーラン様をしかと見据えている。
うん、素晴らしいわ!
その警戒心はとっても大事!
ルビーさんは、慎重に魔石を両手で受け取った。
そして、手を動かして、重さを確認しているよう。
「どう思う? ビーさん?」
ルビーさんは少し考えてから、答えた。
「わかりません」
「あ、嘘ついたー! ぼく、嘘つかれるの嫌いなんだよね」
そう言って、にっこり笑ったノーラン様の目は、全く笑っていなかった。