ルビーさんの魔石
ルビーさんの魔石は、ピンク色の素敵な感じになっていた。
というのも、ピンク色はルビーさんの力の色。
そう、聖女の試験で、ルビーさんの手からピンク色の光がパーッとひろがった時を思い出すわ。
私の地味な力とちがって華やかで、本当に素敵だった!
そのピンク色と、もともとの魔石の色、灰色が混じりあっている。
しかも、何故か、漆黒の線が模様のように魔石全体を走っていて、まるで芸術品みたい。
「ねえ、このビーさんの魔石、大聖女のエリカさんはどう思う?」
どこか挑戦的に、エリカ様に問いかけたノーラン様。
その雰囲気を敏感に感じ取ったエリカ様の目の色が変わった。
挑まれると受けて立ち、更に、攻め込んでいくほどの勝負師だものね。
エリカ様は祈りの時以上の真剣さで、ルビーさんの魔石の前に立ち、じっと見た。
「そうね……。ルビーは魔石全体に力をこめられなかった。だから、ルビーの力のピンク色と、もともとの魔石の色である灰色が混じってる」
「うん。それは誰でもわかるよね?」
ノーラン様がそう言ったとたん、エリカ様が、きっとノーラン様をにらんだ。
「当然、そんなことはわかってるわ! まだ、分析している途中よ!」
「そうだ、ノーラン! エリカの邪魔をするな!」
すかさず、口をはさむロジャー様。
「じゃあ、続きをどうぞ? 多分、エリカさんじゃ、わからないと思うけど」
と、意味ありげに微笑んだ偽エルフ。
ちょっと、なんで、そんな煽るようなことを言うのよ!?
しかも、この感じ、王太子様のエリカ様への態度と似ている。
もしや、ふたりとも、反抗したいお年頃なのかしら?
あ、でも、ノーラン様は王太子様より2歳年上。年齢は違う。
というか、ノーラン様って、もう20歳よね?
言動に大人の要素がまるでないわ。
もしかして、偽エルフだけに、永遠の子どもなのかしら……。
なんて考えていたら、地の底をはうような声がした。
エリカ様だ。
「ちょっと、今、なんて言った……? まさか、私がわからないって言ったの? ノーラン、どうも私をなめているようね? 絶対に正解を見抜いて、謝らせてあげるから覚えてなさい!」
ノーラン様をにらむエリカ様の視線に震え上がった私。
ミケランさんもアリシアさんもおびえた顔をしている。
が、表情を変えないルビーさん。
自分の魔石の話でこんな感じになっているのに、不安そうでもない。
なんという心の強さ!
やっぱり、あの恐ろしい王太子様の婚約者の座も、筆頭聖女の役目も、安心して引き継げる逸材だわ!
どちらも、私より断然向いているものね……。
ここで、エリカ様がルビーさんの魔石を手にもった。
「あら……?」
と、首をかしげる。
そして、手の上で魔石を動かして、また、首をかしげるエリカ様。
また、動かす。
そうやって、何度も魔石を動かすエリカ様。
すぐに、ロジャー様がすすみでた。
「どうした、エリカ? 何か俺が手伝えるか!?」
と、問いかけるエリカ様のしもべロジャー様。
「じゃあ、これを持ってみて」
そう言って、エリカ様はロジャー様の両手に魔石を持たせた。
「どう?」
ロジャー様に聞いたエリカ様。
「思ったより軽い」
「それだけ?」
それだけ? それって、どういう意味かしら?
エリカ様の問いに、ロジャー様もとまどったような顔をしている。
「やっぱり、聖女でも魔術師でもないロジャーにはわからないのね……」
そうつぶやいて、エリカ様はロジャー様から魔石をとりあげた。
そのとたん、絵に描いたように、ずどーんと落ち込むロジャー様。
「ごめん、エリカ。役に立たなくてごめん、エリカ。でも、捨てないでくれ、エリカ……」
なにやら変な方向に思考が向かっている。
エリカ様は、そんなロジャー様をまるっと無視して、今度は、私に向かって言った。
「ルシェル、あなたがその魔石を持ってみて」
私はルビーさんの魔石を手にもった。
軽い。
まあ、聖女の力がこもっているぶん、軽くなるのは当然よね。
と、思いつつ、少し魔石を動かしてみた。
え……? 今度は重い。
また、動かしてみると、今度は、多分、普通の石としての重さ。
なに、これ……?
一体、どういうこと…?