勝負師
「あのね、ノーラン。ルビーさんも聖女なの。魔力はないから、教えてくれなくて結構よ!」
すると、偽エルフが意味ありげにフフっと微笑んだ。
「ほんとにそうかなあ……? ビーさんは教えてもらいたいかもね?」
ルビーさんを見ると、動揺したように瞳を揺らしている。
偽エルフは、何を言っているのかしら……?
わけのわからないことを言って、ルビーさんを困らせるんじゃないわ!
もう一度、びしっと注意しようと思った時、大声が響き渡った。
「終わったわ! もう、魔石はいっぱいよ! 私が優勝ね!」
え、エリカ様? この騒ぎの中、いまだ力を入れ続けてたの?
勝負に貪欲すぎて、そっちのほうに驚いてしまう。
みんな、そう思ったようで、なんともいえない表情でエリカ様を見ている。
が、あっけにとられている私たちを前に、ロジャー様が喜びを爆発させた。
「さすが、エリカだ! 2分きっかりだぞ! もちろん、優勝はエリカ! いとしのエリカ! エリカは最高だ! 俺のエリカ、おめでとう!」
エリカ様への賛辞を叫び続けるロジャー様。
もはや、危ない人にしか見えない……。
ロジャー様がエリカ様をほめたおす場面を見慣れていないルビーさんとミケランさんが困惑している。
そんな舞い上がっているロジャー様にノーラン様が言った。
「あのね、ロジャー君。優勝は、ぼくの独断だから、エリカさんが優勝とは決まってないよ?」
「なんだと、ノーラン!? 俺のエリカに何が不満なんだ!? エリカに欠点なんか、ひとつもないだろう!? エリカが優勝じゃないなんて許さないからな!」
と、荒れるロジャー様。
うーん、偽エルフも変だけど、ロジャー様も変。
なんか、怒る点もずれてるし、沸点が低すぎる……。
「あ、今のロジャー君の発言は、ぼくへの脅しとして、エリカさんから減点しておくね~」
と、意地悪な笑みを浮かべる偽エルフ。
「はあ? なんで、エリカから点をひくんだ!」
更に、ロジャー様が荒れてきたところで、エリカ様のひとこえ。
「ロジャー、だまって。少し減点されたくらいで、私の優勝はゆるがない。速さはもちろん、魔石にこめたた力も、最高のものをぶちこんでるからね!」
と、エリカ様が鼻息荒く答えた。
「え、大聖女様……?」
ミケランさんが茫然とつぶやいた。
確かに驚くわよね……。
だって、品の無い言葉に、ぎらついた目つき。
大聖女様というより、まさに勝負師にしか見えないもの。
でも、この方が、まごうことなき大聖女様ですよ、ミケランさん……。
と、ここで、ノーラン様が手をたたいた。
「ということで、まだ、勝負は終わってないからね? じゃあ、残り時間、みんな、あきらめないで、がんばってね! ビリの人には、だしものが待ってるよー!」
その言葉に、みんなは、だしものだけは避けようと、ふたたび、魔石に力をこめはじめた。
すぐに、ノーラン様が終了し、次いで私も終わった。
他の3人は力をこめ続け、制限時間の5分がたった。