無敵なのは
ノーラン様がポケットからとりだした魔石を、ミケランさんがきれいに等間隔に並べ直していく。
その間にノーラン様が楽しそうに説明をはじめた。
「ここに並んだ魔石くんたちに種もしかけもありません! はい、ルシェ、調べて?」
え? 私?
仕方なく、ひとつ持ってみる。
人の頭くらいある大きさだから、普通の石としての重さがある。
ちなみに、この魔石は灰色で、そこらへんにある石みたいな、なんの変哲もない見かけ。
「普通の重さです」
そう答えると、ノーラン様がうなずいた。
「ここに魔力がこめられると重くなり、聖女の力がこめられると軽くなる。これは、皆知ってるよね?」
「「はい!」」
やたらと元気な、気持ちのよいお返事が聞こえた。
ちなみに、返事をしたのは素直なミケランさんとアリシアさんだけ。
「じゃあ、なんでもいいから、魔石くんたちにみんなの得意な力をこめてね~。制限時間は5分。優勝者には、ぼくから素敵なプレゼントでもあげようかなあ!」
プレゼントっていっても、優勝者はどう考えても偽エルフでしょ?
「時間は、ロジャー君が担当ね!」
ノーラン様の言いつけを、「わかった」と、素直に聞くロジャー様。
驚いたように、ノーラン様とロジャー様を見るルビーさん。
そうよね、驚くわよね。
神殿の責任者であり、しかも王弟でもあるロジャー様を「ロジャー君」と呼ぶんだもの……。
残念なことに、偽エルフには人間の常識が通用しないの。
と、心の中で説明をする。
ミケランさんは、みんなより大きな魔石をふたつ並べて置いた。
そう、私とノーラン様の分。
でも、ノーラン様の隣にいると集中できなさそう。
魔石に力をこめるなら離れていたいわよね。
ということで、さっと自分の分の魔石を持って、テーブルの端っこに移動しようとすると、ノーラン様に腕をつかまれた。
「どこいくの? ルシェはぼくの隣でしょ?」
「ノーラン様と離れたほうが、集中できそうだし」
つい、本音がでた。
「もー、ルシェったら、やっぱり反抗期だ! 仕方ないなあ……」
ノーラン様はそう言うなり、私のまわりに円を描くように手を動かした。
瞬間、ノーラン様のほうに体が勝手に動く。
「えっー? なに、なに、なに!? 体がひっぱられる!」
と、叫ぶ私。
私の体は、ノーラン様の隣にぴったりとひっつくように並んだ。
離れようにも体が動かない!
「勝手にルシェが離れるから、魔力のひもでぼくとつないだの。だから、ルシェは、ぼくの隣にいるしかないよ」
得意そうな笑みを浮かべる偽エルフ。
魔力のひもでつなぐ? なにそれ!?
「さすが、ノーラン様! 一瞬で、魔力のひもを使って、人をつなぐなんて、すごいです! ……あ、でも、魔力のひもでつなぎながら、同時に魔石に魔力を入れるのは無理ではありませんか?」
「あ、ぼくなら大丈夫。魔力はいっぱいあるからね。ルシェをつないでおくぐらい、どうってことないもん」
明るい声で答える偽エルフ。
私をつなぐ? 私はペットじゃないわ!
ついに、私の怒りが爆発した。
「早くほどきなさい、ノーラン!」
「えー、このままでも、ルシェが力をこめるのに、なーんの問題もないよ? ぼくの魔力はルシェの力を邪魔しないもーん」
「魔力じゃなくて、ひっついてるノーラン自身が邪魔なの! 私の心を邪魔するの!」
「ぎゃー! ルシェがひどーい! そんなひどいこと言ったら、ぼく、泣いちゃう!」
騒ぎ出す偽エルフ。
瞬間、バンっと大きな音が響いた。
見ると、エリカ様が手をたたいたよう。
「ノーラン、ルシェルを即刻ほどきなさい! そして、早く勝負を始めるわよ! いつまで、待たせるつもり? こっちは、とっくに準備はできてるんだからね!」
と、すごい勢いでまくしたてたエリカ様。
そういわれてみれば、エリカ様は魔石の前で両手をかざして、すでに構えのポーズに入っている。
並々ならぬやる気を感じるわね。
しかも、目がものすごくぎらついていて、怖い……。
どうやら、偽エルフも怖かったみたいで、すぐに、魔力のひもをほどいた。
解放された私はひっついていた体を、ノーラン様からさっと離す。
あー、良かった。
それにしても、さすが、エリカ様だわ!
一瞬で、偽エルフに勝つなんて……。
つまり、無敵なのはエリカ様ってことね。