怒らない
よろしくお願いします!
私の手のひらから、うすい紫色の霧がではじめた。そして、どんどんと魔石の中にすいこまれていく。
私の場合、何かを守護する場合は、守るものに膜をかけていくようにイメージするけれど、今回は、魔石の中に守護の力を込める。だから、魔石の中へ中へと守護の力を注ぎこんでいくようイメージする。
もっとよ、もっと…。
集中して、念じていると肩をたたかれた。
「はーい、おつかれさまー! 無事完了! さっすが、ルシェ。今日も、すっごく、きれいな守護の力だったね!」
と、ノーラン様の声。
「え、終わった?! いくらなんでも、まだでしょ? だって、守護の力を魔石の半分こめるのにだって5分かかるのに。今、5分もたっていないわよね? あ…、それか、私、途中で意識がとんでたの?!」
「もう、ぼくがそばにいるのに、ルシェの意識をどっかにやったりなんかしないよ? ルシェの言う通り、5分もたってない。でも、ほら、魔石くんを見て! ルシェのきれいな色に魔石くん、染まってるでしょ?」
確かに…。
黒々していた魔石が、今は、うすい紫色に変わっていた。
うすい紫色は、私が放つ色。
つまり、私の守護の力が、結界の魔石いっぱいにはいりきって、色が変わったということ。
こうなると、何故か、魔石の棘もふにょふにょでやわらかくなるので、直接触っても痛くない。
なので、両手で持ち上げてみる。うん、重さはないわね…。
ということは、いつもどおり、無事、守護の力を込め終わったみたい。
でも、絶対におかしい。
なんで、こんなに早く終わったの?
「すごいです! ルシェル様! まだ、2分しかたっていません!」
手元の時計を見ながら、ミケランさんが驚いたように、大きな声をあげた。
「2分…? え、うそ?!」
「いえ、本当です、ルシェル様! いつもなら、魔石の半分まで守護の力がこもって、魔石が暴れなくなるのに5分。完全に力がこもって色が変わるまでには、最低でも10分はかかります。やはり、ノーラン様がルシェル様をお手伝いすると、こんなに短い時間で、魔力がこもるものなのですね! さすが、お二人です!」
興奮気味に話すミケランさん。
「ミケラン、ぼくたちがお似合いだって褒めてくれてありがと。ぼく、ルシェが一緒だと、どんどん力がでるみたい」
お似合い? 何を言っているの、偽エルフは?
そう言えば、さっきから、偽エルフの姿が見えない。
なのに、声が近いのは何故? しかも、ものすごく近い。
もしや…?!
私はバッと後ろを振り向く。
すると、案の定、私の背中にはりついている偽エルフがいた。
文字通り、はりついているのに、私にその感覚はない。
つまり、魔力カーテンを使ったのね! この魔力カーテンをひくと、人の気配が完全に消える。
ただ、気配だけ消えるので、透明人間のように姿が消えるわけではない。だから、見えるところにいればわかる。
なので、子どもの頃、お茶会では、魔力カーテンを使って、私が見えない私の背後に隠れて、よく驚かされてたものだったわ…。
まだ、こんな子どもみたいなことをしているの? しかも、仕事中に?
私と目があったとたん、「あ、見つかった。やっほー、ルシェ」と、ものすごい至近距離で手をふる偽エルフ。
あまりの奇行に、思考がとまる。
「…なんで、そんなところにいるのですか…?」
「ルシェが守護の力を込めはじめた時、ぼく、ひらめいたの! ぼくの魔術で、ルシェのお仕事を手伝う、いい方法をね。そのためには、ルシェの真後ろにいるのが一番いい。だから、移動したんだけど、ただ移動するのも、つまんないし? 子どもの頃を思い出して、魔力カーテンをひいてみたの。ルシェを驚かしたら、おもしろいなって思ったからね。ルシェ、後ろから声をかけると、いっつも飛び上がって驚いてたもんね。懐かしいでしょ?」
そう言って、魔力カーテンを外して、私の隣に移動する偽エルフ。
偽エルフが、私の背後から、どんな魔術を使って、私の仕事を猛スピードで終わらせたのか気にはなる。
でも、今は、それよりも、この偽エルフを叩きたい衝動におそわれている。
が、暴力は絶対ダメ…。どんな理由があろうとも絶対にダメ…。
深呼吸をして、心を整える。
私は聖女。聖女たるもの、怒らない、怒らない、怒らない…。
しっかり暗示にかけてから、偽エルフに疑問をぶつけるべく、再び、向き直った。
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