張り切ってます!
よろしくお願いします!
ついに、ルビーさんがやってくる日。
気合いの入っている私は、いつもより随分早く、目がさめた。
窓をあけて、深呼吸をする。
なんて、すがすがしい朝かしら! まだ、外は真っ暗だけど、関係ないわ!
ルビーさんが、筆頭聖女になるための一歩を歩みだすのにぴったりの日ね。
早く起きすぎて、時間がたーっぷりある私は、神殿のお掃除までしてしまった。
無事、ルビーさんが、筆頭聖女になってくれますように…。
そして、婚約者様も一緒に、無事、引き継いでくれますように…。
美味しいお菓子を、沢山、食べられる日が、早くきますように…。
心の底から、祈りながら床を磨く。
あまりに力が入りすぎて、気がつくと、床はぴかぴかになっていた。
動きすぎて、しっかりおなかもすいたところで、ちょうど朝食の時間になった。
いつもは、起きるのがぎりぎりの為、歩いているように見せかけて、全力で走るという技を披露するのだけれど、今日は余裕で食堂まで歩いていけるわ!
「おっはようございまーす!」
自分でも驚くほど、大きな声がでた。
あれ? みなさん、びっくりした顔で、どうしたの?
一瞬、シーンとしたあと、
「おはよう、ルシェル。なんだか、すごく、ご機嫌のようだけど、何かあったの?」
エリカ様が不審そうに聞いてきた。
「おはよう、ルシェル。普段は、目が半分くらいしかあいてないのに、どうしたの?」
心配そうに聞いてくるのは、アリシアさん。
「おはよう、ルシェル。悩み事があるなら、エリカとぼくが聞くよ? ぼくたちは、ルシェルの両親だからね」
優しいけれど、見当違いの言葉は、ロジャー様。
そんなみなさんに、笑顔で答える私。
「今日から新人聖女のルビーさんがくるので、張り切ってるだけです! 朝が起きられなかった昨日までのルシェルとは違いますから、ご安心を!」
「…全く、安心できないわね…。ルシェルが張り切りすぎると、不安が増すんだけど? まあ、ほどほどにしてね?」
エリカ様が、なんともいえない顔をした。
私たちが食卓につくと、メイドさんたちが手際よく朝食を並べてくれた。
最初に、大聖女のエリカ様が祈り、続いて、私、アリシアさんと祈りの言葉を述べていく。
それから、みんなで朝食をいただく。
ちなみに、食卓には4人。聖女3人とロジャー様だ。
ロジャー様は、専属護衛騎士としてではなく、大聖女様の伴侶として朝食をともにされている。
他の男性たち、神官さんや、護衛騎士さんたちは、別の食堂で食事をしている。
ロジャー様は、かたときも、エリカ様と離れないからね。
ロジャー様は、大聖女の伴侶という特例として、聖女専用の食堂を使えるように、決まりを作った。
もちろん、ロジャー様が…。
いつものように、私は、目の前におかれた、ジュースに手をのばす。
みんなより、ひときわ大きいグラスに、なみなみとつがれた、どろりとした濃い緑色のジュース。
そう、これは野菜ジュース。それも、エリカ様お手製のジュースなのだ。
異世界人のエリカ様。異世界におられたときは、「健康オタク」という存在だったらしい。
なんでも、体にいいことが、大好きなんだそう。
そして、異世界でも、毎朝野菜ジュースを作り、飲んでいたとのこと。
効果はバッチリよ!と、自慢げに語るエリカ様。
でも、これが、悲しいことに、味はバッチリではない。
控えめに言っても、おいしくないのよね…。
色々な野菜が入っているけれど、混ぜない方がいいんじゃないかしら?という組み合わせの味だ。
大聖女様お手製のジュースと言えは、大金を払って買う人も続出するような、有難さなんだろうけれど、私としては、到底、がまんできない!
ということで、不敬にも、味の改良を求め、抗議の声を何度もあげた私。
その都度、
「癒しの力が強まる最高の組み合わせのジュースだから、飲みなさい。もちろん、体にもいいのよ。ルシェルは小さいから、大きくなるように、量は倍にしてるからね」
と、エリカ様。
そう言われたら、飲むしかない…。
だって、筆頭聖女の責任がある。癒しの力は強いほどいいものね。
それに、年齢よりも子どもっぽく見えるほど、背が低い私。大きくなりたい!
エリカ様は痛いところをついてくる。
ということで、私は、朝食の時は、一番最初に、エリカ様お手製のジュースに手を伸ばす。
嫌いなものは最初に。そして、好きなものは最後にとっておくタイプだから。
私が神殿に来て3年目の時、エリカ様とロジャー様は、ご結婚された。
そして、神殿の隣にロジャー様がお屋敷を建て、エリカ様とロジャー様は住まわれた。
そう、あの時、私は、少しだけ寂しく、そして、おおいに喜んだっけ…。
だって、私はエリカ様と朝食を一緒に食べられなくなる。
つまり、お手製野菜ジュースから解放されるんだって思ったから。
しかし、エリカ様とロジャー様は早朝から神殿に通ってきて、今までと変わらず、私と一緒に朝食を食べ続けた。
もちろん、お手製ジュースも毎朝でてくる。
エリカ様のお気持ちは、本当に、とってもありがたい。…だけど、味がね…。
「ええと、ご結婚されたのだから、私のことはお気になさらず、お二人でお食事をされたほうが良いのでは?」
やんわりとすすめた私。
「何を言うの! ルシェルは私の家族で、もはや娘よ!」
と、エリカ様。
「そうだよ、ルシェル。君は大事な家族だ」
と、優しい声で言ってくれたのは、ロジャー様だ。
お二人にそんなことを言われたら、うるっとして、何も言えなくなった。
が、私は思いついた。
ロジャー様が美味しくないと言えば、特製ジュースの味が改良されるかも?と思ったのだ。
私は、早速、朝食の時、エリカ様の前で、ロジャー様に聞いてみた。
「ロジャー様、…エリカ様の特製ジュースはいかがですか?」
すると、ロジャー様は、それはそれは嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。
「エリカの作るものなら、なんでも美味しいよ」
甘い…。甘すぎる…。
そして、聞いてごめんなさい。聞く人を間違えました。
ということで、私、ルシェルは、今日もエリカ様お手製野菜ジュースを涙目で一気飲みしています。
たまーに、エリカ様が不在の時もあるのだけれど、その時は、料理長さんにきっちりと伝言してあるようで、寸分たがわぬ味のジュースがでてくるのよね…。
料理長さん、たまには、アレンジも必要ですよ?
読んでくださった方、ありがとうございます!