先輩聖女として
よろしくお願いします!
ふと見ると、ルビーさんが、私たちを不思議そうに見ている。
あ、そうよね…。
結界の魔石を初めて見る人には、何が何やらよくわからないわよね。
ということで、ルビーさんに向かって簡単に説明しておこう。
「この結界の魔石に、今から、私が守護の力をこめます。なので、今は、からっぽの状態です。からっぽの結界の魔石は、持ち上げられないほど重いんです。逆に、守護の力がこもるほど軽くなります」
「それって、逆ではないのですか…?」
ルビーさんが不思議そうに聞き返す。
「ええ。私も、最初は、ルビーさんと同じように思いました。守護の力がこもっている時は、石が重たくて、こもっていない時は軽いんじゃないって。でも、逆でした。なぜなら…」
そう言いかけた私を、ノーラン様が手で制し、ルビーさんのほうを向いた。
「ビー、あ、やっぱり…初対面なのに、失礼だよね? じゃあ、ビーさん。なんでそうなるんだと思う?」
と、ルビーさんに挑発的な口調で問いかけたノーラン様。
ルビーさんの瞳の力がぐっと強くなる。
そして、ノーラン様を強い視線で見据えたまま、真剣な表情で考えはじめた。
偽エルフの挑戦に受けてたったわね、ルビーさん!
偽エルフにまどわされない、その強さ! 最高です、ルビーさん!
そして、ノーラン様、またもや、おかしなことを言っていたわよね?
失礼だから、「さん」をつけるって…。
そもそも、勝手に、ルビーさんの名前を省略して、承諾もなく、呼んでいる時点で失礼すぎるというもの。
とってつけたように、「さん」だけつけてもね…?
おそらく、ルビーさんの中で、ノーラン様の好感度はどんどん下がっているはず。
筆頭聖女をひきついでもらったら、ノーラン様との仕事は避けられないのに…。
まあ、でも会ったばかりだし。今日の仕事を終えるころには、せめて、なごやかな感じで終われますように…。
私が心でそう願っていると、考えがまとまったらしいルビーさんが、ノーラン様にむかって話し出した。
「結界の魔石は、守るべき場所を仕切るために置かれるのでしょう? つまり、持ち去られたり、場所を動かされると意味をなさなくなる。そのため、結界の魔石は重いという特性があるのではないでしょうか。ただ、守護の力が石にこめられると、魔石自体に守護の力がかかるため、そういう危険性はなくなる。そのため、魔石に重さは必要ない。だから軽くなる。…そう思ったのですが…」
と、ノーラン様を挑むように見ながら答えるルビーさん。
はあー、ここに天才現るだわ!
もう、筆頭聖女をすぐにでも引き継げそう!
「初めてなのに、そこまで結界の魔石の特徴を見抜くなんて、本当にすごいわ、ルビーさん! ね、ノーラン様?」
私は拍手をしながら、感嘆の声をあげた。
「よくわかったわね!」
アリシアさんも、ルビーさんに向かって、感心したように言った。
ミケランさんも、にこにこしながら、うなずいている。
ほら、ノーラン様も、これでルビーさんを認めたでしょう?
無駄につっかかるのはやめなさいよね!
そういう気持ちをこめて、ノーラン様をじーっと見る。
が、空気を読まない偽エルフ。
「うーん、ビーさん、惜しい! その答えは50点。ルシェからの圧で、上乗せされて60点ってとこかなあー?」
と、のたまった。
はあああ?! なに失礼なことを言ってるの?!
ここは先輩聖女として、新人聖女さんのため、きっちり抗議しておかねば!
「ルビーさんの答えは、ほぼ完ぺきでした! ノーラン様だって、惜しいと言われましたよね? 普通、惜しいと言うのなら、点数は50点じゃなくて、90点でしょ?! そして、私の圧が上乗せされるなら100点になるところよね?! なら、満点じゃないっ!」
胸をはって、ノーラン様に言い放った。
静まりかえる部屋。
ノーラン様は無言で私の頭をなではじめ、ミケランさんは空虚な目で宙を見はじめた。
そして、アリシアさんは困ったような笑いをうかべ、ルビーさんはとっても冷たい目で私を見ている。
あれ? 私、なにか、変なことを言いましたか…?
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