早めの対策
よろしくお願いします!
私の願いもむなしく、やたらと張りきった空気をだすノーラン様。
こうなったら、ノーラン様が変なことをするひまもないくらい、スムーズに仕事を終わらせましょう!
ミケランさんが、結界の魔石が入った木箱をテーブルにおいた。
「はいはーい、じゃあ、ここでバトンタッチ! 今日はぼくがルシェを手伝うんだからね。ミケランはあっちに座っててよ」
「いえ、とんでもないです! 魔術師長であられるノーラン様に、新人魔術師の仕事なんてさせられません!」
ミケランさんが、ぶるぶると首を横にふる。
「ねえ、ミケラン。今、ルシェとの仕事を、仕事#なんて__・__#…って言った? もしかして、この仕事、つまんない? 嫌なの? あ、それとも、ルシェのこと、馬鹿にしてる?」
はあ? そんなこと、誰も言ってないでしょ?!
結界の魔石に守護の力を入れる仕事は、私がメインのお仕事だ。
魔術師さんは、お手伝い的な要素しかない。
なので、ミケランさんの前任の方も、担当は新人の魔術師さんだった。
つまり、魔術師さんからみたら、簡単なお仕事に分類される。到底、魔術師長自らが行う仕事ではない。
そういう流れで、ミケランさんは、「なんて」という言葉を使ってしまっただけなのに、何故、そう受け取るの?
案の定、ミケランさんは真っ青になって、ぶるぶると首を横にふった。
「ととと、とんでもありません!! 筆頭聖女ルシェル様のことは大変尊敬しております! もちろん、この仕事が嫌などと思ったことはありません! 精一杯つとめさせていただいています!」
ミケランさんが必死に言い募る。
大丈夫ですよ、ミケランさん。
真摯にお仕事をされているのは、よくわかっていますから…。
本当に、早速、面倒なことを言いだしたわね、偽エルフ。
今後、更に暴走していかないよう、対策は早めが肝心。ということで、私が止めに入る。
「ノーラン様。言葉尻を捕らえて、攻めるのはやめてあげてください。それより、早く仕事にかかりましょう。じゃあ、ミケランさん、その魔石を箱からだしてください」
「はっ、はいっ! ルシェル様!」
ミケランさんが、木箱に手をかけた。
「ねえ、ここから、ぼくにバトンタッチって言ったよね? ミケランは、座っててって、言ったよね? ぼくの指示がきけないんだ?」
と、ノーラン様。
その瞬間、ノーラン様の髪がなびく。あ、やばい、魔力を使ってる!
「ミケランさん! 椅子に座って! 早く逃げて!」
私が叫んだ時には、すでに遅く、ミケランさんの体が宙にうきあがっていた。
そして、ヒューンと天井すれすれまで上がったかと思うと、何故か、天井付近をぐるりと一周。
それから、椅子めがけて急降下。ミケランさんは、椅子の上にぴたりと着地した。
とりあえず、ほっとしたのもつかの間、何故か、椅子の上で、ミケランさんの体がポコーンと3回バウンド。
そして、椅子から床の上に転がりおちた。
場が静まりかえる…。
「あれえー、椅子の上に運んであげようと思ったのに、ちょっとずれちゃった。ごめんね、ミケラン」
そんなのんきな声が静けさをやぶる。
もちろん、その声の主は、やけに美しい笑みを浮かべた偽エルフ様だ。
ちょっとずれたというか、3回もバウンドさせたりして…どう見ても、わざとよね…。
それ以前に、人を勝手に魔力で移動させてはいけません…。
というか、大丈夫かしら? ミケランさん…。
すると、はっとしたように、立ちあがったミケランさん。直立不動でノーラン様に言った。
「いえ、私こそ、ノーラン様の指示に従わず申し訳ありませんでした!」
ガバッと頭をさげるミケランさん。
「うん、わかればいいよ。ルシェに関わってる時は、ぼくの指示は絶対だから。これからは気をつけてね、ミケラン?」
「はいっ、もちろんです! ノーラン様」
「なら、今日はぼくにまかせて、ミケランはゆっくりしててー」
「はい、よろしくお願いいたします! ノーラン様」
「うん、了解」
満足そうに笑う、偽エルフ。
ミケランさん…。あなた、だまされてます。
謝るのは、ミケランさんを魔力でふきとばし、わざと、椅子から転がした偽エルフのほうですよ…。
こうなったら、私がミケランさんのかたきを取るわ。
偽エルフを存分に働かせましょう!
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