慣れてもらおう
よろしくお願いします!
昨日のことを思い出し、朝からげっそりしていると、「みんな、おはよう!」と、今の私とは真逆のような爽やかな声。そう、エリカ様とロジャー様だ。
いつもながら、朝から、元気なお二人ね…。
「おはようございます」
と、私たちも挨拶を返す。
そして、お二人の後ろから、ワゴンを押してくるベテランメイドのマーシャさん。
そう、そのワゴンには、エリカ様お手製の野菜ジュースがのっている。
今日も今日とて、すごく濃い緑色ね…。
しかも、ひときわ大きなグラスが私のだ…。
今日、初めてここで朝食をとるルビーさんの前にも、しっかりと野菜ジュースが並べられた。
「エリカ様特製の野菜ジュースになります。エリカ様自ら、毎朝、作られてるんですよ」
と、にこにこしながら説明するマーシャさん。
「え、大聖女様が?」
と、ルビーさんが、少し驚いたように言った。
いえ、驚くのはこれからよ、ルビーさん…。
問題は、味だから…。
聖女の生活で難しいところは、仕事よりも、この野菜ジュースかもしれないわね…。
がんばって、ルビーさん。私もがんばるわ…。
でも、あれ…? 何かひっかかって、私は開かない目のすき間からじっくりとルビーさんを見る。
うん、やっぱり…。
なんというか、マーシャさんと話しているルビーさんの顔が、自然でやわらかな表情なのよね…。
壁がないというか…。
なるほど…。私への好感度はマイナスだけれど、マーシャさんには一目で心を許したのね!
さすが、ルビーさん、見る目があるわ!
そう、マーシャさんは、みんなのお母さんのようなあったかい人だもの! 放つオーラも、ほんわかしている。
ルビーさんの好感度をあげるために、マーシャさんを見習いたいところだけど、さすがに人間力が違いすぎるわ…。
自分で思って、ちょっと悲しくなってきたところで、エリカ様に話しかけられた。
「ルシェル、昨日はおつかれさま。…目が、今日も開いてないわね…。まあ、疲れるわよね。暴走したノアは、魔獣以上にやっかいだし…」
あきれたように言うエリカ様。
「あ、そうだわ。ルシェル、昨日の魔獣を気にしてたわよね? なんでも、魔獣の森の前で、目をさました魔獣は、すごい勢いで、魔獣の森の中へと逃げ込んだそうよ。二度と外へでることはないでしょ」
「なるほど…。それは、良かったです…」
よほど、ノアが怖かったのね…。震える魔獣を思いだし、申し訳ない気持ちになった。
「そして、アリシア、留守を守ってくれてありがとう。そして、ルビー。初日なのにバタバタしてしまって、話しができなくてごめんなさいね。それで、3日後にルビーの歓迎会とアリシアの送別会をしようと思うの。ルシェル、準備を手伝ってね」
「はいっ、もちろんです!」
私は張り切って返事をした。
そして、朝食後、今日の仕事は…、あっ、魔石に守護の力をこめる日。
つまり、ノーラン様がやってくる…。
疲れているところに、面倒そうな予感。
でも、今日は、私の仕事をルビーさんが見学することになったから、その点は、うきうき。
聖女らしい、まっとうな仕事ぶりを見せて、少しでも警戒心をといてもらえればいいな…。
それに、筆頭聖女を引き継いでもらうためには、仕事柄、会う機会が多い魔術師長のノーラン様は避けては通れない。
ということで、ルビーさんに危険のないように、取り扱いを注意しつつ、あのノーラン様に徐々に慣れていってもらわないとね!
ルビーさん、仕事はできそうだから、野菜ジュースとノーラン様さえクリアできたら、あとは、もう大丈夫じゃないかしら?
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