原因は
よろしくお願いします!
昨日のノアは、控えめに言っても変だった…。
普段、魔獣のことで私が駆り出された時、ノアは、私が魔獣に専念できるように、私の集中を妨げるような物や人は速やかに排除しつつ、私を護衛している。
なのに、昨日はなんなの?!
私の意識は全てノアにもっていかれたのだけれど?
現場につき、魔獣を目撃したとたん、剣をぬいたノア。
そして、ジャックに向かって、
「筆頭聖女の専属護衛騎士の仕事を見せてやる。しっかり見とけ、ジャック!」
そう言ったかと思うと、剣をふりあげて、魔獣をおいかけはじめた。
ノアの行動に意表をつかれたのか、その場にいた誰もが固まった。
普段は、私を守るため私のそばから離れないノア。
魔獣が私に襲いかからない限り、魔獣に直接ノアが向かっていくことはない。
なのに、目の前でくりひろげられたのは、ノアと魔獣のおいかけっこ。
もちろん、初めて見る光景…。
「たった一日なのに、ノアはルシェルの護衛をはずされて、相当ストレスがたまってたのね…」
ぽつりとつぶやいた、エリカ様。
確かにうっぷんを晴らすように、生き生きと魔獣を追いかけていたノア。
足の速さ、軽い身のこなしはさすがで、あちこちから感嘆の声があがった。
ノアは、わざと楽しむように、散々、魔獣をおいかけまわしたあと、やっと、私の前まで追い詰めた。
そして、剣をふりあげたまま、ノアは、おおげさにのたまった。
「さあ、ルシェル様、この魔獣を守護の力でくるんで、眠らせてください!」
ノアに言われなくても、いつもそうしているけど…?
そして、私は、一体、何を見せられているの…?
もしや、これは劇なのかしら? ノア劇場とか?!
なんて、私の頭の中は、答えの見えない疑問がぐるぐると渦巻いた。
エリカ様とロジャー様も茫然としていたわ。
普段のノアと違いすぎて、あっけにとられる神殿チーム。
が、一方、普段のノアをあまり知らない、王宮の騎士さんや魔術師さんたちからは、次々と賞賛の声があがった。
「さすが、筆頭聖女ルシェル様の専属護衛騎士だ! 魔獣を一人で追い込むなんて、すごいな!」
そんななか、すっかり存在を忘れていたジャックが、衝撃をうけたようにつぶやいた。
「筆頭聖女の専属護衛騎士は、ここまでするのか…? 俺にできるだろうか…?」
自信をなくしたジャックに、ノアが、悪魔のような笑みをうかべて声をかけた。
「ルシェルが守護をかけやすくするため、魔獣をルシェルの前に連れてくるのも、筆頭聖女の専属護衛騎士の仕事だ。ちなみに、普段は、こんな小さな魔獣じゃない。もっと大きくて凶暴だ。…なあ、ジャック。おまえにこれができるのか? もし無理なら、俺が引き続きルシェルの護衛をする。どうする?」
ジャックの顔から、みるみる血の気がひいていったわ。
「こら、ノア! 嘘をつくんじゃないの! ジャック、信じたらダメよ!」
へ? という感じで、私を見たジャック。
「今、ノアが言ったことは全部嘘よ! ノアは、普段そんなことはしないわよ。今日はおとなしい魔獣だから、ジャックをだますためにやっただけでしょ。だいたいね、目の前に魔獣を連れてこなくても、私の場合、視線で捕らえることができたら、守護の力はかけられるの。魔獣を連れてくる必要は全くないわ! というよりも、そんな危ないことをしたらダメよ!」
私の言葉を聞いて、ジャックの目に怒りの炎がともった。
「ノア、どういうつもりだ?!」
「ふっ、これくらいの魔獣でびびってるようじゃ、ルシェルの専属護衛騎士の座はおまえには無理だってこと。はっきりわからせようかと思って?」
「なんだと! もう一回言ってみろ?! この性悪!」
「何回でも言ってやる! この単細胞!」
と、こんな感じでケンカをはじめた2人。
30歳近い騎士たちが、子どものように言いあっている様子を、驚いた顔でながめる皆さん。
同じ神殿仲間と思われたら、恥ずかしい…。
さっと2人から離れて、私は魔獣に近づいた。
すると、そこには、見るも無残な、かわいそうな生きものがいた。
ノアの企みに巻き込まれ、無駄においかけられまくり、おびえきった魔獣。
私は、ガタガタと震える魔獣に声をかけた。
「ごめんね、怖がらせて。こんな凶暴な生きものがいるから、魔獣の森にいるほうが安心よ。だから、帰ろうね」
そう言って、私は両手から守護の力をだすと、魔獣をくるんで眠らせた。
と、いうようなことが、昨日あった。
そう、暴れたのは魔獣ではなくて、ノア。
どう考えても、私が疲れている原因はノアよね…。
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