疲れが…
よろしくお願いします!
翌朝。朝食のため食堂へ行くと、アリシアさんとルビーさんがもう席についていた。
「おはようございます、アリシアさん、ルビーさん」
3分の1くらいしか開いていない目で、お二人に朝の挨拶をする。
すると、ルビーさんが、驚いたように私を見たあと、
「おはようございます。筆頭聖女様…」
と、少し、とまどったような顔で挨拶を返してくれた。
アリシアさんが、ふふっと微笑んだ。
「おはよう、ルシェル。今日は、目がほとんど開いてないわね。あのね、ルビーさん。こんな感じで、ルシェルは朝がとっても弱いの。だいたい、目は半分しか開いてないわ。全く開いてない時は、眠りながら動いてるの。色々ぶつかったりするから、そんな時は、イチゴジャムをパンにぬって、口元に近づけてみて。目をさますからね」
「はあ…」
あきれたような声をだすルビーさん。
確かに、私はイチゴジャムが大好き。甘みが制限されている私にとって、朝食の一番の楽しみ。
そう、エリカ様のお手製野菜ジュースと対極にある存在だ。
朝食のはじめに、一番苦手な野菜ジュースを一気飲みして、その後に、イチゴジャムをたっぷりぬったパンを一口。
そうすると、口の中が癒されるのよね。イチゴジャム、ありがたいわ…。
なんて考えていたら、ルビーさんの冷たい視線に気がついた。
あ、ダメだわ…。早速、ルビーさんに失望されている。マイナスの好感度が更に下がっているわ…。
イチゴジャムで起こすなんて、面倒だと思われたのね。
ルビーさんに迷惑をかけないように、しっかり目をひらくのよ、ルシェル。
と、自分に気合いをいれてみたものの、頑固な睡眠モードのまぶたは持ちあがらない。
「そうだ。ルシェル、昨日は帰りが少し遅かったみたいだけれど、魔獣が大変だったの?」
アリシアさんが聞いてきた。
「いえ、全然。魔獣は攻撃もしてこないし、どちらかというと、かわいいくらいで…。でも、別のことで疲れたというか…」
目覚め始めた頭で、ゆっくりと昨日のことを思い出していく。
そう、昨日の魔獣は、幸い、たった一頭で、攻撃してくる魔獣ではなかった。
なので、戦うこともなく、私の守護の力でくるんで眠らせて、魔術師さんに、時間がたてば消える魔術をこめた紐でくくってもらい、騎士さんたちが、魔獣を「魔獣の森」へと運んで行った。
いつもどおりの流れ作業。
ちなみに、ここ、ロメール国は、縦に長い形をしていて、国の東側には三つの国と国境を接してる。
そんな国々に挟まれるようにあるのが、「魔獣の森」。
古くから、そこは、どこの国にも属したことはない。
人が住むことはできない場所であり、魔獣だけが住む場所。
そして、不思議と住み分けができていて、多くの魔獣は、そこからでてこない。
でも、やはり、例外はいる。
そして、おおむねそういった魔獣は、好奇心が強く、怖いものしらずで、人間に出会うと容赦なく攻撃してくる。
そのため、わが国は、「魔獣の森」との境に、結界の石をおき、私の守護の力を定期的にこめている。
そうやって、こちらに入ってこないように対策はしているのだけれど、魔獣の森から、他の国に入り込み、そこから、この国へと入り込んでくる魔獣がたまにいるのよね…。
とはいえ、昨日の魔獣は、珍しく攻撃もしてこないどころか、私たちを見て、怯えて逃げる感じだった。
おそらく、自分の意思で森の外へ出たのではなくて、何かの拍子に迷い込んだ魔獣だったのだと思う。
でも、ああいう気弱な魔獣こそ、すぐに森に返さないと、面倒なことになるのよね。
気弱であっても、魔獣は魔獣。人間より身体能力は高い。
そんな魔獣を悪事に利用したいと思う悪人は、いつの時代も、どこにでもいるから。
そういう悪い人間にとって、弱い魔獣こそ格好の獲物。だって、攻撃力のある強い魔獣を捕らえることは、武器をもってしても、魔力など特別な力でもない限り、一般の人間には、まずできないし。
過去にはそんな弱い魔獣をつかまえて、薬漬けで支配して、犯罪に使ったおぞましい事件があった。
だから、すみやかに森に返せてほっとした。
そう、今回の魔獣の仕事は普段より楽だった。なのに、この疲れ…。
理由はノア! 魔獣より大変だったノアのせいよ!
昨日のことを思い出すと、いらだちで目がさめてきたわ!
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