野獣 対 野獣
よろしくお願いします!
過保護というか、心配性スイッチが入ったエリカ様は、私にむかって一気にまくしたてた。
「いいこと、ルシェル。このお菓子は小さいけれど、お砂糖の塊よね? もし、小さいからといって、このお砂糖の塊を食べると、もっと甘いものが欲しくなるわ。そうなると、あっという間に、ルシェルはこの神殿に来た時みたいに、押せば転がっていきそうなほど、まんまるくなるわ」
押せば転がっていきそう? 私、そんなにまるかったかしら?
確かに、私の家族は、甘いものが大好きな家族だ。なので、全員、ぽっちゃり気味。
特に、6歳でここへ来た時の私は、かなりぽっちゃりしていた。
が、神殿に入った途端、親代わりになったエリカ様に、大好物のお菓子を禁じられてしまった。
実家からのお菓子の差し入れも禁止になったのよね…。
それから食べられる甘いものといえば、エリカ様特製のおやつ。
正直言って、味はうーん…。
美味しくないというほどでもないけれど、美味しいというほどでもない…。
そして、その原因はお菓子を作ったことがない私でもわかる。
どのお菓子も、全然、甘くない!
「私の経験では、甘いものは、一時的に、癒しの力を弱くする。つまり、食べ続けると、どんどん癒しの力がなくなる恐れがある。でも、そんなことよりも、私はルシェルの体を気にしているの! ルシェルは、甘いものに弱いから、好き放題食べてると、どんどん、どんどん太ってしまうわ。ボールのようになるのもあっという間ね。そうなったら、祈っていても、急に神殿から転がりでたりして、ケガをするかもしれない。そのうえ、聖女の力も弱まるから、人を癒すどころか、いろんな病気になってしまうかもしれない。…だから、ノアの誘惑に負けてはダメ! 私のかわいい娘が、そんなことになったら、ノア。…殺すわよ!」
「はあ?! なんだ、その極端すぎる話は?! しかも、祈っていたら、神殿から転がりでる? なんだ、それ? あるわけないだろ?! っていうか、そんなことあったら見てみたいわ! しかも、大聖女様が殺すって…! いくらなんでも言ったらダメだろう?!」
驚きすぎたノアが、不敬すぎる口調で反論する。
そのとたん、ロジャー様がノアにむかって殺気を放つ。
不穏な空気の中、エリカ様がにやりと笑った。
エリカ様、大聖女様とは思えないお顔ですよ?
「今は休憩時間だから、大聖女じゃなくて、ただのエリカ。だから、何を言ってもいいの。…ノア、何度注意しても、かわいいルシェルに害をなすお菓子を渡すから、ルシェルの専属護衛騎士をはずすわ」
「はあ?!」
不満げな声をあげたノア。
「それいいな」
ノアとは真逆の声をあげたのはロジャー様だ。
「配置を変えてみるのもいい影響があるかもしれないね。やっぱり、エリカはさすがだね。素晴らしい案を思いつくなあ」
エリカ様をほめちぎり、エリカ様に甘い笑顔をむけるロジャー様。
ぶれない…。
「いやいやいや、ロジャー様も何いってんの?! ルシェルの護衛は俺しかいないでしょ」
「いや、ジャックも腕がたつから、ルシェルの護衛騎士にしても大丈夫だ。ノアは、そうだな。明日やってくる新人聖女についてもらおう」
と、ロジャー様。
「はあああ?!」
「ロジャー、それいいわね! 早速、そうしましょう! ノアは、ルシェルをお菓子で餌付けするなんて、姑息な手を使うから、離しておくのが一番よね」
ん? …餌付け?! エリカ様の中で、私って、野生動物みたいな感じなの?
と思ったら、ノアが、二人を鋭い目つきでにらみつけた。
ちょっと、ノア! その目?! 大聖女様にする目じゃないよね?!
それこそ、どう猛な野獣の目だけれど?! いくら休憩中でも、不敬すぎるよ!
すぐに、大聖女様を守るように前に立つロジャー様。
こちらのノアを見る目も、野獣の目。怖い…。
まさに、野獣 対 野獣。
それにしても、甘いお菓子が発端だったはずなのに、どうしてこんな緊迫した雰囲気になってるのかしら?
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