嘘でしょ?
よろしくお願いします!
とろけそうに甘やかに微笑みかけてくる王太子様。それに、怯える私…。
そんななか、目をぎらつかせたエリカ様が、王太子様の服をひっぱった。
「残念ながら、それは、レオの願望で妄想よね? 今のところ、ルシェルからの愛は微塵もない、どこにもない、以上! そんなことよりも、その石! はやく、さっきの続きを教えなさい!」
とたんに、王太子様の顔から甘い表情が消え去り、美貌が凍りついた。
「エリカさんのような単純な人間に、私たち二人の深い愛など理解できるはずもありません」
ええと、深い愛…? それは、どこに…? 私も理解できていないのですが…。
王太子様の言葉に、エリカ様が面倒そうな顔で、投げやりに言った。
「あー、はいはい。わかった、わかった! 2人の深い愛ねー? ちっとも感じられないけれど、あったら、いいわね。うらましいわー。…って、これくらい反応すればいいかしらね、レオ? ということで、二人の愛については終わり!」
あの…、エリカ様。その言い方…。
王太子様の美しい目が、凶暴な色をともしていますよ…?
しかし、お二人とも相手をわざわざ怒らせるような言い方をするところが、なんか似ています…。
そして、王太子様の目が、恐ろしいことになっていても、まるで気にとめていないエリカ様。
「それで? その石は、身につけている人をどうやって守るの? きっと、ものすごーい威力があるのよね?! 身につけている人に危機が迫ると、その石から、ドラゴンが飛び出してくるとか? または、石が敵をまるのみするとか?! それとも、石を身につけている人を、安全な場所へ瞬間的に移動させるとか? そんな、とんでもない感じのことなんでしょ?! 早く教えなさいよ、レオ!」
と、すごい勢いで王太子様に質問をなげかける。
えっ、敵をまるのみって…?!
そんな大蛇みたいな石が指輪に入っているとしたら、怖すぎて捨てたくなりますが…。
「エリカさんに聞かれれば聞かれるほど、答えたくなくなっていきますね…。それにしても、一体どこからそんな幼稚な想像がでてくるのですか? 大聖女様とは思えない発言の連発ですよね? …まあ、いいでしょう。ご期待に沿えないかもしれませんが、教えますよ。見せた方が早いかもしれませんね。では、エリカさん。ぼくを殴ってくれますか?」
えっ…? 殴る?!
王太子様に、そんなことできないわよね?!
そう思った瞬間、ドスっと鈍い音がした。
まさか?! 嘘でしょ…?!
自分の見たものが信じられなくて、何度かまばたきをしてみる。
だって、今、私の目の前で、エリカ様の渾身のパンチが、王太子様のおなかに命中しているのだもの…。
目にもとまらぬ速さで繰り出されたパンチ。
一切の迷いなし…。殴る予兆も感じさせなかったわよね…。
ちょっと、エリカ様っ?! 相手は王太子様ですよっ!
もっと躊躇して!
そして、もっと加減して!
というか、殴らないでー!
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