その時、何が起こったか 1
不定期な更新ですみません!
幸い、ロジャー様は、エリカ様をほめちぎっている最中なので、今回の黒すぎるつぶやきもまた聞こえてはいない。
つかの間、ほっとしていると、王太子様が私の目をのぞきこんできた。
「それで、ルシェル? なぜ、結界の魔石を持って、あいつがくるのですか? 持ってくるだけなら、他の誰でもいいでしょう? 魔術師長である、あいつが来る必要はない…いえ、来るべきではないですよね?」
王太子様の射るような視線に、思わず、体が震えた。
でも、まあ、確かに、王太子様のおっしゃる通りなのよね…。
忙しい魔術師長のノーラン様が来る必要はない。
実際、魔石を手に持って運ぶのは、お付きの魔術師の方だから、ノーラン様は手ぶらで来ている。
そして、肝心の守護の力をこめる作業も、私一人が行う。だから、ノーラン様は雑談しているだけ。
つまり、どう考えても、ノーラン様はいらない…。
で、私も実際、ノーラン様に言ってみたことがある。
お忙しいでしょうから、魔術師の方だけでいいですよって。
で、その時、何が起こったかというと…。
「えー、ルシェがひどいっ! 冷たいっ! ぼくは、ルシェに会えるのをすっごく楽しみにしてるのに、ルシェは、ぼくに会いたくないのー?!」
と、ノーラン様が叫びだした。
ちなみに、どうでもいいけれど、ノーラン様だけは私のことを何故か、「ルシェ」と呼ぶ。
その時、うるさいノーラン様が面倒に思えてしまった私は、ノーラン様に正直に答えた。
「ええ、別に」
って。
そうしたら、いきなり、泣きだしたのよね…。
というか、泣きまねなのだけれど、質が悪いのは、なんといっても、はかなげな、その見た目。
ここぞとばかりに、エルフ感をだしまくりながら、泣くものだから、ノーラン様についてきた青年、新人魔術師のミケランさんが、ノーラン様をかばうように立ちはだかった。
いや、いや、ふりかえって、よく見て?
涙が、一滴もでてないでしょ? しかも、あなたが、かばうような、弱い生きものではないですよ?
その気になれば、この神殿ごと灰にできますよ? だれもが認める魔王ですものね…。
が、すっかり偽エルフに魅了されているミケランさんは、怒りに燃える目で、私にこう言ったの。
「ノーラン様を泣かせるなんて、聖女様なのに、悪女ではないですか!」
その瞬間、その新人魔術師ミケランさんは、部屋のすみにスコーンと吹き飛ばされた。
何が起こったのかわからず、あっけにとられる私。
そして、倒れたまま、茫然としている新人魔術師ミケランさん。
すると、さっきまで泣いていた、…いえ、泣きまねをしていたノーラン様が、倒れている新人魔術師ミケランさんの前に行き、見下ろした。
緑色の瞳が冷たく光り、銀色の髪が放出した魔力でサラサラとなびいている。
そして、ノーラン様は、さっきまでの声とはまるで違う、ひんやりとした声で言った。
「ねえ、ミケラン…。ぼくのルシェに、なにを言ってるの?」
「え…あ…いえ…」
新人魔術師ミケランさんの顔色が、一気に真っ青になった。
さらにノーラン様の魔力が強くなる。
「ねえ、ミケラン。ぼく、聞いてるんだけど? ルシェに、なにを言ったの?」
いやいや、何を言ってるの?は、あなたのほうですよ?! ノーラン様!
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