大聖女エリカ様
よろしくお願いします!
しっかりした甘さが美味しくて、もうひとつ、口にいれた。
すると、
ドドドドドドドッ
すごい足音が聞こえてきた。
あ、まずい! 来るわ…。
私は、あわてて、残った砂糖菓子をポケットにつっこみ、口に入っていた砂糖菓子をバリバリかみくだいて飲み込んだ。
そして、お菓子なんて食べてませんよー! という顔に整えた時、予想通りの人物が目の前にやってきた。
そう、長い黒髪をなびかせた大聖女エリカ様だ。
後ろには涼しい顔をしたロジャー様がぴったりとついてきている。
うん、いつも通りね…。
エリカ様はまっすぐな黒髪を腰までたらし、あでやかな大人の美貌で、とっても素敵な方だ。
特に、大聖女様としてお仕事をされる時は、きらきら光る癒しの力をまとい、うっとりするほど神秘的。
が、一旦、仕事を離れると、素のエリカ様は全く違う。
神秘的なところなどかけらもなく、ずばずばものを言い、思い立ったらすごい勢いで動く。
心は熱く、面倒見もよく、たくましい人。
それに、私がお菓子を食べていると、めざとく見つけ、神殿内であろうが、全力でおいかけてくる。
ノアと一緒で、見た目と内面があってないのよね…。
「見たわよ、ノア! あなた、また、ルシェルにお菓子を渡してたでしょ!」
「怖いだろ…。どこから見たんだ?」
小声でつぶやいたあと、ノアは、嘘くさい笑みを浮かべて、エリカ様に言った。
「見間違いでは?」
すると、エリカ様は、ぴしりとななめ上を指差した。そこは、神殿のバルコニーがある。
しまった! この中庭は、あそこから丸見えだわ…!
(…って、ノア?! あなた、護衛騎士でしょ?! あそこからエリカ様が見てたの、なんで気づかないの?! 休憩中とはいえ、いくらなんでも、だらけすぎでしょ?!)
という気持ちをこめて、私はノアをじとっとにらんだ。
すると、ノアは私を不満たっぷりの目で見返してきた。
(はっ? 聖女なのに、大聖女様の気配に気づかず受け取ったルシェルも同罪だろ?!)
という声が聞こえてくるよう。
そんな脳内の会話が成立するほど、私がノアからお菓子をもらい、こっそり食べて、それをエリカ様に見破られ、叱られるというパターンを懲りずに何度も繰り返している私たち。
「ノア、私は、この目でしっかり見たわ。決して見間違いじゃないわよ?」
ノアに圧をかけるエリカ様。
「エリカの黒曜石のような瞳は、美しいだけでなく、遠くまで見渡せるからね」
と、エリカ様を甘く見つめながら、優しく言うロジャー様。
うん、これまた、いつも通りね…。
というのも、ロジャー様は、エリカ様のことはなんでも褒める。
褒めようがないようなことも褒める。全く照れることなく褒める。
ロジャー様は、とても精悍なお顔立ちなのに、エリカ様を見る時は、恐ろしいほど甘い空気をまき散らす。
絵姿が大人気なのも納得な美男美女のお二人ではあるけれど、間近で見ていると、なにかしら微妙な気持ちになるのよね…。
巷に広まっている、お二人の大恋愛。その影響を受けて、不純な動機で護衛騎士になったノアも、何とも言えない顔をして二人を見ている。
「聖女様と騎士の恋愛…。俺が思ってたのと違うよな? やっぱり、大聖女様が変すぎるのか?」
ノアが、不敬極まりない言葉をぼそりとつぶやいた。
そのとたん、ロジャー様が、ノアとの距離を速攻で詰めた。
「なんて言ったノア? もう一回言ってみろ?」
エリカ様には絶対に見せない顔で、ノアを見据えるロジャー様。
すごい迫力に、さすがに怖い者知らずのノアも黙った。
が、エリカ様は、そんな二人の様子を気にすることもなく、私を見た。
「ほら、さっきのお菓子、だしなさい。ルシェル」
えええっー?!
私はしぶしぶ、お菓子をポケットから出し、手のひらにのせ、エリカ様に見せた。
「ほら、こんな小さなお菓子ですよ。これくらいなら食べてもいいのでは?」
私の言葉に、真顔になったエリカ様。
あ、このお顔…。面倒な過保護スイッチが入ったみたいよね…?
早速読んでくださった方、ありがとうございます!