震える
不定期な更新ですみません!
あ、いけない!
エリカ様と王太子様がやりあっているのを見ているひまはないわ!
私は、自分に守護をかけておかないと!
といっても、他の人のためなら、どんどんでてくる守護の力も、自分のためだと、あんまり力がでてこない。
しかも、私の場合、守護の力は、両手の手のひらからでるのだけれど、今、右手はがっしりと王太子様に捕獲されている。
つまり、左手しかあいていない。
でも、片手であろうが、不得意であろうが、やるしかないわ。
頼れるのは自分だけ!
ゆで卵の薄皮ほどでも守護できれば上出来よ!
若干でも、音が遮断できれば、あとは気合いで聞き流せると思う。
これ以上、この恐るべき秘宝のことを詳しく知ることは絶対に阻止しないと!
ということで、私は、王太子様につかまれていない左手の手のひらを自分のほうにむけた。
そして、手のひらから守護の力がでて、自分に膜がはっていくイメージをしはじめる。
が、すぐさま、イメージがとまった。
え、ちょっと、王太子様?! 一体、何をしているの?!
守護の力をだすために、自分にむけた手のひらに、何故だか、王太子様が、ご自分の手のひらをぴったりと重ねてきた。
驚いて王太子様の顔を見る。
すると、それはそれは麗しいお顔で私に微笑んできた。
王太子様の予想不能な行動に、変なドキドキがとまらないわ…。
とりあえず、落ち着くのよ、私…。
自分に言い聞かせながら、状況を把握してみる。
王太子様は、さっきまで両手で私の右手をつかんでいたけれど、今は片手でつかんでいる。
そして、もう一方の手は、私の手のひらに、ご自分の手のひらを重ね合わせている。
ええと、一体何をしているのかしら。
意図がわからなさすぎて、怖いわね…。
「ええと、王太子様…。なんでしょうか、その手は…?」
おそるおそる聞いてみた。
すると、王太子様は小さい子どもに語りかけるように言った。
「ルシェル。自分に守護をかけなくても大丈夫ですよ」
えっ、守護をかけようとしたことがばれてる?!
「それと、ルシェル。ぼくは、こうみえて鍛えています。だから、守護をかけなくても、ぼくが傍にいる時は、どんな敵からも、ぼくがルシェルを守ります。安心してくださいね」
そう言って、とろりと甘い瞳で私を見ている。
が、そう言われましてもね…。私は、王太子様の声が聞こえないように守護をかけようとしてるんですよ…。
なんて当然ながら言えるはずもなく、小心者の私は心とは裏腹になんとか返事をした。
「はあ…。ありがとうございます…?」
「それと、ルシェル。王家の事情とはいえ、婚約者のあなたに秘密をもってしまってすみませんでした。その分、今から、この石について説明しますね。もちろん、エリカさんに問い詰められたからではなく、ルシェルに知ってもらうために」
ひいっ…! 何故、全く知りたくない私を名指しするの…?!
ほんと、それは、やめて!
私はあわてて言った。
「私、忘れっぽいので、すべて忘れました! この指輪の石はエメラルドです! だれが何と言おうとエメラルドです! なので、その秘密、是非、ずっと秘密のままでお願いいたします!」
すると、王太子様は、つかんでいる私の腕と、重ねている手のひら、どちらも、ぎゅーっと強くにぎりこんできた。
え、王太子様、お怒りですか?! だって、これ、私の血をとめようとしているわよね?!
おびえながら見ると、王太子様が、ほの暗い瞳で微笑んでいる。
「ルシェル。寂しいことを言わないでください。…絶対に、逃がしませんよ」
え? 今、最後、すごく小さい声でなんて言ったの…?
なんだか急に寒くなって、体が震えるのだけれど…?
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