エメラルドもどき
不定期な更新ですみません!
エリカ様は、げっそりとした顔で王太子様に言った。
「レオ。あなた、病んでるわ…」
「本当に失礼ですね、エリカさん。ぼくは至極健康ですよ」
美しいまでの無表情で答える王太子様。
そんな王太子様を見て、エリカ様が、ふーっとため息をついた。
「まあ、いいわ。それよりも、石のことよ。 つまり、すり替えたエメラルドもどきに秘密があるということね。エメラルドと見間違うほどの見た目で、何かしら秘密を持つ石…。王族で王太子のレオが持っている石…。うーん、まったくピンとこないわね? …っていうか、そもそも、私、この石の存在を知ってる?」
エリカ様がロジャー様のほうを見て聞いた。
「いや、エリカは知る由もない。俺は子どもの頃、王太子だった兄から、エメラルドに似た不思議な石が、王を継ぐ者に渡されると、こっそり教えてもらった記憶があったから、もしやと思っただけだ。この石は、王と王を継ぐ者、つまり、王と王太子にしか存在を知らされないという秘宝。そうだろ、レオ?」
「ご名答です、叔父上」
淡々と答える王太子様。
「だから、エリカ。君はすごい! この石について全く知らないにもかかわらず、エメラルドではないと気づいた時点で、君は天才だ!」
と、全力でエリカ様を褒めたたえるロジャー様。
いつなんどきでも、エリカ様をほめるロジャー様、すごいわ。
なんて、感心している場合じゃない!
だって、さっき、ロジャー様は、王を継ぐ者にしか存在を知らされない秘宝って言ったわよね?!
よりによって、とんでもない重大機密事項じゃないのっ?!
まずいわ…。
私、その秘宝とやらを、しっかり、見てしまっている…。
そのうえ、何故か、身につけてしまっている…。
やはり、なんとか自分自身に守護をかけて、耳だけでも聞こえないようにしないと。
これ以上、この石の秘密を知るわけにはいかないわ!
筆頭聖女と婚約者を引きついだ後、私が安全に生きられるため、そして、好きなだけ、お菓子を食べ歩くために、今、どうすべきか…?
あー、ダメだわ! あせりまくっているせいか、ちっとも考えられない!
と思ったら、雷…いえ、エリカ様の怒声がとどろいた。
「一体どういうことよ、レオっ?!」
「至近距離で叫ばないでください、エリカさん。それと、どういうこととは、どういうことですか?」
眉間にしわを寄せ、嫌そうに言う王太子様。
「おい、口に気をつけろ! レオ!」
すぐさま、エリカ様の隣で王太子様を威嚇するロジャー様。
エリカ様に対して反抗的な王太子様 → ロジャー様がきれる。
さっきから、デジャブのように繰り返されるこのくだりを見て、パニックになっていた私の思考が冷静になる。
自分より取り乱している人を見ると、逆に落ち着くものなのね。
ありがとうございます、ロジャー様…。
エリカ様が、ぐいっと王太子様に迫る。
「どうもこうもないわよ、レオ! つまり、レオは、私が知るはずもない石のことを当てさせようとしたってことよね?! さっき、レオ、なんて言った? 『大聖女様なのに、まだ、その指輪の秘密に気づかないのですか? 鈍ってるんじゃないですか?』って、さも、私が知ってて当然のように言ったわよね?! そうでしょ、ロジャー?!」
すぐさま、ロジャー様がうなずく。
「ああ、言った。確かに言った。エリカの言う通りだ。しかも、その言い方、レオにそっくりだ。すごいな、エリカ。ものまねも上手だなんてエリカは本当にすごいな!」
…ええと、ロジャー様?
そのほめかた、いくらなんでも変すぎます…。
しかも、この荒れた空気の中、空気を読めてない発言がすごいです…。
荒れ狂うエリカ様にむかって、王太子様が冷ややかに答えた。
「さあ? ぼく、そんなこと言いましたっけ?」
王太子様…!
こんな荒れたエリカ様に、平然とすっとぼけるなんて、なんて恐ろしい方!
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