専属護衛騎士ノア
今日、3回目の更新になります。
のんびり、お菓子を食べ歩くという目標を掲げるくらい、甘味に飢えた私の目の前で、さっきから、揚げ菓子をむさぼる男がいる。私の専属護衛騎士のノアだ。
内面を全く反映していない、硬派に見える整いすぎた顔。
まっすぐで黒い髪と、黒々とした鋭い目。
仕事モードの時は、私のことを「ルシェル様」と呼び、口調も丁寧。しかも、悔しいくらい見た目は申し分ないので、物語にでてくるような素敵な騎士に見えてしまう。
そのため、私の護衛として、赴いた先では、女性たちから熱い視線を浴びている。
が、仕事以外の時はだらけた感じで、口調も雑。私への態度はぞんざいすぎる。
まあ、私が6歳の時から護衛してくれているから、年の離れた兄のような感じで、お互い遠慮はないのだけれど、お菓子を見せびらかすのは、ひどいわよね?!
「ちょっと、ノア! 一人だけ食べて、心が痛くないの?! ほら、私にも、一つ、よこしなさいよ」
「ダメ。この前、こっそり渡したことがばれて、大聖女様に大目玉をくらったからな」
そう言うと、ノアは、ことさらゆっくりと、「うまいな」とか言いながら、私に見せびらかすように、揚げ菓子をほおばる。
「もう30歳なのに、なんて大人気がないのかしら」
腹立ちまぎれに言うと、ノアの口がとまった。
「おい、ルシェル。俺は、まだ28歳だ」
「あんまり、変わらないじゃない?」
「違う! はああ~。聖女様と大恋愛をすることを夢見て、18歳の時に聖女の護衛騎士の試験を受けたのが運の尽き。優秀すぎる俺は首席で合格。そのため、筆頭聖女の専属護衛になると聞かされ、舞い上がったのに…。まさか6歳児のお子様聖女だったとは。なんてかわいそうな俺…。そして、それから10年間。護衛に専念しすぎて青春を棒にふってしまった、かわいそうな俺…」
一気にそう言うと、ノアは、また、揚げ菓子にかぶりついた。
「あのね、ノア…。色々、訂正させてもらってもいいかしら?」
「却下」
「却下を却下。しっかり、訂正させてもらうわね。 まず、ひとつめ。何より護衛騎士になる動機があきれるほどに不純よね。聖女様と大恋愛って、それは大聖女エリカ様と護衛騎士のロジャー様のことを言ってるのだろうけれど、ノアはロジャー様とは違いすぎて無理だから」
大聖女エリカ様は、護衛騎士ロジャー様とご結婚されている。仲睦まじく、美男美女で大人な雰囲気のお二人は、絵姿も売られ、数多のお芝居にもなっている。
「正統派のロジャー様とはタイプが違うが、俺にはあふれでる色気がある」
揚げ菓子を片手に、胸をはるノア。
「色気…? どこを探しても見つからないんだけれど?」
ノアは、はーっとため息をついた。
「やっぱり、俺の良さはお子様にはわからないだろうな。町に行けば、大人気だぞ?」
「あ、町といえば、ふたつ目の訂正よ! 10年間、護衛に専念しすぎて…ってなに? 結構、自由に遊んでるようだけれど? 今だって、その揚げ菓子、私が祈ってる間に買ってきたものでしょ? しかも、私の護衛は朝から夕方まで。私は夜は外に出られないからね。そして、夜、ノアは町で遊びまくってるって、護衛騎士のジャックに聞いたわ。青春を棒にふるどころか、人一倍、謳歌してきたんじゃないの?」
すると、ノアは、「くそっ、ジャックのやつめ…」と悪態をつく。
「ねえ、ノアは夜、町で何をして遊んでいるの?」
ノアをじっと見て、聞いた。
「…えっ?」
急に、ノアがうろたえ、私から目をそらす。
「なるほどね…」
私がつぶやくと、ノアはあわてて言った。
「…いや、遊んでるっていっても、それほどじゃないっ!」
仕事中は、誰を前にしても、ひょうひょうとしているノアが、妙に焦っている様子がおもしろい。
「フフ…。別にいいわ。自由時間だものね。でも、いいなあ! そんなに私に言いたくないほど、おいしいお菓子を食べまわっているのね。うらやましいわ」
ノアは、一瞬ポカンとしたあと、猛烈に首を縦にふった。
「…そうなんだ! 町で、俺は菓子の食べ歩きをしてるんだ! ばれたらしょうがないな。俺は、ルシェルの言う通り、町で上手い菓子を食べまくっている!」
「やっぱり、そうなのね。いいなあ。私も一緒に行きたいなあ…」
私がもう一度言うと、ノアは、騎士服のポケットから袋を取り出して、こそっと私に手渡した。
「大聖女様には絶対言うな。俺が毒味済みだから安心して食べていい」
渡されたのは、小さな袋に入った砂糖菓子だ。
「あっ、やった! ありがとう!」
私は、もらったお菓子をひとつ、口に放り込む。
「うわー、美味しい! 甘いお菓子は、人を幸せにするわよね! あー、思う存分食べたいなあ。そうだ、ノア。私が、筆頭聖女じゃなくなった時は、町につれていって、美味しいお菓子を沢山食べさせてよね!」
ノアは、フッと笑って、うなずいた。
「ああ、嫌というほど食べさせてやる」
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