不思議とかじゃない
よろしくお願いします!
私は最後のあがきとばかりに、私の手を放さない王太子様に必死に訴えた。
「あの、…エリカ様にせっつかれるまで、王太子様…いえ、レオ様は話したくなさそうでしたよね! そんな秘密にしたいことを、今、話さなくてもいいのでは?! 特に、私は聞かなくてもいいのでは?!」
「確かに、今はまだ、話すつもりはありませんでした。でも、そこまでルシェルが聞きたがらないと、何故か聞かせたくなります。不思議ですね」
そう言って、麗しく微笑んで、小首をかしげる王太子様。
いやいや、不思議とかじゃないですよ! やめて?!
「あきらめなさい、ルシェル。そして、隠していることを、とっとと話しなさい。レオ」
と、エリカ様。
そうエリカ様は、かなりせっかち。
「そうだぞ、ルシェル。あきらめは肝心だ。エリカが聞きたがってるからな」
と、いつも通り、常にエリカ様優先のロジャー様らしい発言が飛び出す。
仕方ないわ。こうなったら、聞き流しましょう。
私は石になる。石になる。石になる…。
ん? なにか、私の手の甲にやわらかいものが…って、えええ?!
王太子様がつかんでいる私の手の甲に口をひっつけている!
「ちょっと、な、な、なにをしているのですかっ…!」
思いっきり手をひっぱりながら、叫ぶ私。
「ん-、ぼくの話に集中してほしいから」
そう言って、王太子様が私の手を持ったまま嫣然と微笑んだ。
「だったら、口で言いなさいよ! ルシェルに、むやみに触るんじゃない! そして、さっさと言いなさい!」
王太子様に更に近づき、怒りの声をあげるエリカ様。
至近距離での、すごい声の大きさに、王太子様の笑みが消える。
若干ふてぶてしく思える表情で、エリカ様を見返す王太子様。
「うるさいですね…。だから、答えは、ルシェルのこの手ですよ。叔父上でさえ、この手を見ただけで察したみたいなのに、まだ気づかないとは、思考能力がおとろえたのですか? エリカさん」
ちょっと、王太子様? なんて毒舌! 死ぬ気ですか?!
と思った瞬間、文字通り沸騰した顔で、ロジャー様が王太子様の胸ぐらをつかんだ。
ちょっと待って、ロジャー様!
私の手が危ないじゃないですか?!
王太子様は、私の手はしっかりつかんだままなので、そこで、けんかはやめてー!
「おい、レオ! だれにむかって、おとろえたなどと言っている?! おとろえたのは、エリカにそんなことを言うお前の頭だろ? エリカに暴言を吐くとは、おまえ、消えるか? ああ、やはり、消えたいんだな。なら、俺が消してやる!」
今度は、王太子様を消しにかかったロジャー様。暗殺者みたいだわね…。
「うるさい! ちょっと考えてるんだから、ロジャーはだまってて! それと、邪魔。そこにいたら、ルシェルの手が見えないでしょ? ちょっとどいてて!」
エリカ様が、ロジャー様の服をひっぱった。
そのとたん、ロジャー様は、素早く王太子様の胸ぐらから手を放し、エリカ様の隣の位置にまいもどった。
いつなんどきでも、すごい従順さよね…。
ロジャー様が、エリカ様の使い魔に見えてきたわ…。
エリカ様は、王太子様から私の手を奪い取り、食い入るように見はじめた。
「答えがわからないようなら、言いましょうか? エリカさん、早く聞きたいのでしょう?」
王太子様が挑戦的に言った。
「レオもだまってて! 私が答えを見つけるわ!」
エリカ様が、私の右手をひっくり返したりしながら、王太子様に大声で答える。
そう、エリカ様は、すごい負けず嫌い。
すっかり、王太子様の言葉に、あおられている。
そして、エリカ様…。
さっき、ロジャー様を王太子様に簡単に誘導されている、脳筋の根性をみせて、などなど、叱っていましたが、残念ながら、エリカ様も今、似たような感じに見えてます…。
すっかり手玉にとられて、遊ばれてます…。
だってほら、必死で考えているエリカさんを見る王太子様の笑顔。
悪魔みたいだもの。
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