言ってもいいこと?
よろしくお願いします!
「なるほどね、まあ、神殿内の安全面だけでいえば良しとするわ。レオの影なら優秀でしょうし? でもね、これからは、レオの歪んだ私情でルシェルの専属護衛騎士を遠ざけるのは禁止よ! わかった、レオ?」
「…」
無言の王太子様。
小さい頃から完璧な外面だったから、エリカ様だけに見せるこの態度。
今、王太子様は私より2歳年上の18歳。
遅れてきた反抗期…みたいな感じかしら?
でも、いつもの麗しい笑顔より、このぶすっとした表情のほうが、若干だけれど親しみを感じるわ。
私にとったら、皆さんを骨抜きにしている笑顔のほうが、よほど怖い…。
なんて思っていたら、エリカ様命のロジャー様が即座に絡んでいく。
「レオ? エリカに向かって、なんだ、その態度は?」
ロジャー様がすごむ。
が、王太子様は、悪びれることなく言った。
「約束はできませんから、返事をしなかっただけです。ルシェルに必要以上にそばに寄る男の専属護衛騎士など目障りで不要。叔父上も、そうではありませんか? エリカさんに、叔父上以外の他の男の護衛騎士が、守るという名目で、ぴったり寄り添っていたら、どう思われますか?」
想像したのか、あからさまに嫌な顔をしたロジャー様。
「絶対に許せん! しかしだ。まず、エリカの場合は、そんなことはあり得ない。俺たちは常に一緒だからな。俺より近くに他の護衛騎士がそばによることも、エリカを守る機会を得ることも絶対にない!!」
怒気をまき散らせながら宣言するロジャー様。
「そうでしょう? ぼくも許せません。だから、エリカさんの言うことに返事をしなかったのですよ、叔父上」
黒そうな笑顔で答える王太子様。
そのとたん、ロジャー様の背中をばしっと叩いたエリカ様。
「ちょっと、ロジャー! レオに、なんて簡単に誘導されてるのよっ?! 生粋の腹黒相手とはいえ、もっと、脳筋の根性を見せて、あらがいなさいよ!」
えええっ…?! エリカ様?!
今、ものすごーく失礼なことを言いましたよね?!
それは、本人たちを前にして言ってもいいことなの?!
しかも、腹黒と脳筋って、どちらがどちらかは即座にわかるけれど…。
でも、そんな言われ方をしたら、さすがにロジャー様も怒るのでは…?
と、思ったら、ロジャー様が鍛え上げた屈強な身体を縮こまらせ、しょんぼりと言った。
「ごめん、エリカ。がっかりさせて、ごめん…」
ロジャー様…。
垂れた耳と垂れたしっぽが見えるようです…。
この顔、市井では絶対に見せられないわよね。
イメージがボロボロと崩れ落ちるもの…。
大聖女様を守る騎士の中の騎士として、大人気のロジャー様。
エリカ様に寄りそうロジャー様の絵姿は、売れに売れている。
でも、その絵姿のたくましく、かっこよいロジャー様とはまるで違う人が目の前にいます…。
体は大きいけれど、叱られた子犬のようですよ…。
そして、エリカ様が、敗北したロジャー様から、勝利した王太子様に視線をうつした。
「それで、レオ? その顔、ルシェルに関して、もっと隠し玉がありそうよね。ほかに隠してることはなに? はっきり言いなさい!」
エリカ様の鋭い視線が、王太子様を射抜いた。
エリカ様と王太子様が、無言でにらみあう。
緊迫した雰囲気に変なドキドキが…。
そんな空気感を打ち破る、場違いなほど嬉しそうな声が響いた。
「さすがエリカだ。かっこいいな…!」
もちろん、ロジャー様だ。
さっきまで、しょんぼりしていたのに、今は恍惚とした表情をしている。
6歳で神殿に入った私を、エリカ様とともに両親のように面倒をみてくれたロジャー様。
言葉に言い表せないほど、尊敬していますし、感謝しています。
でもね、今、ちょっと気持ち悪いです。
ごめんなさい、ロジャー様…。
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