聞いてない
読んでくださっている方、ありがとうございます!
ジャックは、ぶんぶんと横に首をふった。
「とんでもないです、エリカ様! 筆頭聖女の専属護衛騎士に任命されて、大変誇りに思っています! 俺は全力で務めるつもりです!」
離れた位置から、すごい声量で答えるジャック。
「なら、どうして? その距離、おかしいでしょ?」
エリカ様が不思議そうに聞く。
そうですよね…。
そして、その原因を作った犯人はここにいます!
ほら、早く、エリカ様に王太子様が自ら説明してあげてください!
ジャックが、専属護衛騎士放棄という冤罪をかけられそうになっています!
という思いをこめて、目の前にいる犯人をじっと見る。
すると、それはそれは美しいお顔で微笑み返された。
うん、まるで聞いてないみたい…。
ジャック、ごめんなさい。
自首は無理だったわ。自力でがんばって…。
という思いが通じたのか、ジャックが、エリカ様に説明を始めた。
「神殿内にいる時は、必要以上に筆頭聖女に近づかず、離れた状態でも護衛できないといけないと聞きました。俺は距離を保って、全力でお守りしています!」
「ロジャー、そんなこと言ったの?」
と、エリカ様がロジャー様に聞く。
「まさか! できるだけ近くにいて、守るべきだ。もちろん神殿内でも同じこと。だから、私はエリカから絶対離れない。ひとときも離れたくない!」
さすが、ロジャー様…。
どんな質問をしても、最後は、ただただエリカ様大好き!みたいな答えに持っていくわね…。
エリカ様は、そんなロジャー様を放置し、ジャックに視線を戻す。
「…ジャック。聞くまでもないけれど、一応聞くわ。それ、誰が言ったの?」
「もちろん、王太子殿下です! 筆頭聖女の婚約者様の忠告を、俺はきっちり守っています!」
自信満々で答えるジャック。
「やっぱりね」
そう言ったとたん、エリカ様が王太子様のところに文字通りつっこんできた。
もちろん、ロジャー様も遅れまいと、エリカ様にひっついて、つっこんできた。
ふと、実家の森で見たイノシシを思い出す。懐かしいわ…。
しかし、王太子様のすぐ前には私がいて、背後にノアがいる。
そこへ、エリカ様とロジャー様が追加され、ここだけ、更に人口密度が高まってしまった。
そして、王太子様の顔からは笑みが消え、うざったそうな顔がのぞく。
いつもの優雅な笑みより、しっくりくるわね。
素に戻った王太子様に、お怒りのエリカ様が問いかける。
「ねえ、レオ? 専属護衛騎士のジャックがこんなに離れていて、ルシェルになにかあったらどうするつもりなの?」
「ルシェルには何もおきませんよ」
「何故わかるの?! レオは予知能力でもあるの?! それとも、なんでもご存じの神様なのかしら?!」
王太子様に、たたみかけるようにたずねるエリカ様。
背後に、吹き荒れる風の幻覚が見えるわ…。
うん、相当怒ってるわね…。
「そんなわけないでしょう。何、おかしなことを言ってるんですか、エリカさん?」
王太子様が冷たい目でエリカ様を見据え、あきれたように答えた。
ロジャー様のまとう気が、一気に険悪になる。
あ、まずい! また一人、この狭い範囲で悪い気をだす人が増えたわ!
エリカ様、お隣ですよ! 早く浄化をお願いします!
ブックマーク、評価、いいねをありがとうございます! 励みになります!