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救世主

よろしくお願いします。

王太子様が手だけでなく、体ごとノアと私の間にはいりこんできた。

そして、ノアに背をむけて、私の方を向いて立つ。

つまり、立ち位置は、ノア、王太子様、私だ。


広い神殿の中で、ここだけが人口密度が高い! 

一刻も早く、離れたい…。

でも、逃げたいのに、体が動かない…。


焦る私に、王太子様が麗しく微笑むと、優しく諭すように話しかけてきた。

「ルシェルの専属護衛騎士は、ジャックに代わったと聞きました。前の護衛騎士は、もはやルシェルとは無関係。ルシェルと話す必要も、ルシェルを見る必要も、ルシェルに近寄る必要もないですよね。そうでしょ? ルシェル」


いえ、違います、なんて口が裂けても言えない雰囲気よね…。

優しい口調にもかかわらず、言ってることが色々怖すぎるんだけど…。


そして、そんな王太子様の背後に佇むノア。

ちょっと、その殺気、しまって!


王太子様を恐る恐る見ると、優雅な表情とは裏腹に、紫色の瞳はどう猛な光を宿している。

そして、なんだか、まがまがしいオーラが、王太子様のまわりにたちのぼっているのを肌で感じる。


ふと見ると、アリシアさんが震えている!

聖女はおおむね、人の放つ気みたいなものに敏感だからね。


なのに、隣のルビーさん。

まばたきもせず、大きな目を見開いて、王太子様を凝視していた。

恐れている様子は皆無。


なんて、すごい! 

この気にあてられないなんて、肝がすわっているわよね!


私は確信した。

やはり、笑いながら怒る王太子様のお相手は、ルビーさんしかいない。

私の目に狂いはなかったわ。良かったー!

これなら、速やかに引き継げそうね! 


私の楽しい未来に思いをはせ、現実逃避していると、目の前から、クスッと笑い声が…。


はっ、まずい! 


現実に戻ると、王太子様が、凶暴なほどのお美しさで笑っておられます。

もちろん、顔は笑っているけれど、怒りのオーラは更に強まっておられます。


思わず硬直してしまう私に、背の高い王太子様はかがむようにして、顔を近づけてきた。


近いわっ!


同時に、王太子様の背後が真っ黒になったように見えた。

なぜなら、王太子様の背後にいるノアが、漆黒の瞳をぎらぎらさせて、王太子様の一挙一動を凝視しているから…。こちらも危ない気を放っている。


そして、ノア…。ダメよ、その目は…。

だって、護衛というよりは、完全に王太子様を狙っている刺客の目だもの…。


そんな目で王太子様を見るのをやめなさい! 

不敬でクビになったらどうするの?!


と、ノアに、視線だけで注意しようと試みる私。

でも、ノアは刺客の目のまま王太子様を一心に見ている。私が眼中にないわ!


心の中で、必死に叫ぶ。

ちょっと、こっちを向いて! 向きなさい、ノア!


「へえ? ぼくが話しているのに、他のことを考えるなんて余裕ですね、ルシェル」

王太子様が驚くほど低い声で、私の耳に直接ささやいてきた。


だれ? この声? ほんとに、王太子様?!

こんな声で話すのを聞いたことがないんだけど?!


思わず、体がぞわりとして、後ずさる。


よくわからないけれど、本能が叫ぶ。


仕留められるわっ! 命の危機よ! 逃げなきゃ、私! 


せっぱつまったその瞬間、

「はいはい、そこー。私の娘に何してるの?!」

力強い声が神殿に響いた。


見ると、いつのまにか神殿に入って来ているエリカ様。

そして、ぴったりと寄り添っているロジャー様。


お二人が光り輝いて見える。まさに救世主だわ!

読んでくださっている方、ありがとうございます!

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