運命が変わった日
本日、2回目の更新になります。
私、ルシェルは地方に領地のある伯爵家の娘。
権力に無縁で、気のいい両親と、年の離れた優しい兄と姉がいて、みんなにかわいがられ、のーんびり暮らしていた。
が、私が5歳の時、運命が変わる事件がおきた。
それは、王都に家族で遊びに来る途中のこと。
馬車の窓から見える風景が、にぎやかになってきて、もうすぐ王都に着くという時だった。
聞いたこともない甲高い鳴き声のようなものが響いてきたのは…。
そのとたん、馬車が大きく揺れて動かなくなり、びりびりと窓がふるえて割れた。
そして、割れた窓のむこうに、空から何かが舞い降りてきた。
骨ばった翼、まっくろい犬のような顔。そこに、細長い赤い色の口ばし。首から下は白い鱗でてらてらしている。
人間の大人と同じくらいの大きさの生きものだった。
「みんな伏せろ、魔獣だっ!」
お父様の叫び声。
でも、私は動けない。初めて見る生き物に、目が釘付けになったから。
魔獣は、口ばしを大きく上下に開き、甲高い鳴き声をあげ、棘だらけのしっぽを地面にうちつけながら、こちらへ近づいてきた。
伯爵家の護衛騎士が魔獣の前に飛び出して行き、剣をぬき、斬りかかった。
が、鱗にあたり、剣が折れた。
そのとたん、魔獣が羽ばたいた。
翼の風が、騎士にふきつけ、騎士はその場に倒れた。
騎士を助けようとする人たちも皆、翼の風で倒されていく。
「口と鼻を覆え! 翼の風を吸うな! 毒だっ!」
だれかが叫んだ。
混乱の中、魔獣は、倒れた護衛騎士のそばに立ち、騎士めがけて、鋭い爪のある前足を振り上げた。
その時、私の体の奥底から何かがせりあがってきた。
「やめてー!」
私の叫び声とともに、その何かが外にあふれでる。
うす紫色の霧のようなものが、私の全身からではじめ、あたり一面にひろがっていく。
またたく間に、うす紫色の霧は魔獣を包み込む。たちまち、魔獣は動かなくなり、ぱたりと倒れた。
そのとたん、私は体中の力がぬけ、意識を失った。
目がさめたら、まわりは大騒ぎになっていた。
うす紫色の霧のように見えたものは、私の守護と癒しの力だそう。その力で魔獣を眠らせ、魔獣の毒を吸いこんだ人たちも、いっぺんに癒したそうだ。
私はすぐさま神殿に呼ばれ、色々調べられた。
結果、神殿では判断できないほどの力だと言われ、国で保護する意味もあり、6歳になったら聖女として神殿に入るようにと王命がでた。
その時、ちょうど6歳の誕生日をむかえる一か月前だったから、私よりも、家族のほうがショックを受け、離れるのは嫌だと大泣きしていたわ…。
そして、6歳になり、神殿に入った。少し前に、ご高齢だった大聖女様がなくなり、筆頭聖女だったエリカ様が大聖女になられていた。
そのため、力が大きすぎる私は、たった6歳で、筆頭聖女として任命されてしまった。
それから働くこと10年。私は16歳になった。
筆頭聖女のお仕事以外では外出することもなく、神殿の中で育った私。
子どもの時に神殿に入った私は、みんなにかわいがってもらって、寂しくはなかったけれど、同年代の友達がいないのが悲しい…。
それに、私が筆頭聖女になった6歳の頃は、他にも6人くらいの聖女がいたのだけれど、減る一方。
だって、近年、癒しの力を持つ人がめっきり減ったみたいで、新しい聖女がずーっと入ってこないから。
今は、大聖女エリカ様、筆頭聖女の私、聖女のアリシアさんの3人しか聖女はいないので、忙しい。
しかし、なんと、アリシアさんが、今月辞めることになった。
私が6歳で筆頭聖女になった頃から、すでに聖女として仕事をしていたアリシアさん。
私よりも12歳年上で、お姉さんのように面倒をみてくれた。
が、急に、癒しの力が消えてしまったようで、聖女を引退することになった。
故郷に帰り、幼馴染の婚約者さんと結婚するそうだ。
しかも、その婚約者さん、ケーキ屋さんをしているのだって!
甘いケーキに囲まれて暮らすなんて、うらやましすぎる…。
私も、そろそろ、神殿からでて、いろんなところに行ってみたい!
祈る以外のこともしてみたい!
そして、なにより、ちまたにあふれる、おいしいお菓子を食べまくりたい!
でも、筆頭聖女は良くも悪くも目立つ。このままでは、それができない。
だから、私は考えたの。
筆頭聖女の役目をだれかに引き継ぐしかないとね。
私の考えを聞いた大聖女エリカ様。
「ルシェル以上に筆頭聖女にぴったりの聖女がいればね。…まあ、無理だと思うけど…」
と、言った。
よし! 言質はとったわ、エリカ様!
ということで、私は、先日のルビーさんに筆頭聖女を引き継ぐべく全力で押していきましょう!
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