神殿へ
よろしくお願いします。
私たちは神殿に移動した。
王太子様には最前列の椅子に座っていただき、私が祭壇の前で、今日2回目となる「国の安寧」を祈った。
お祈りを終えて、目をあけると、あれ…?
うっすら紫色の霧が、あたりにたちこめている。
もちろん、出所は私。
正確には霧ではないのだけれど、霧のようなもの…って長いし言いにくいから、便宜上そう言うことにしている。
普段は、癒しの力や守護の力を強く使った時にしか出現しないのだけれど、引き継いでくれるルビーさんが今日来ると思うと、知らず知らずのうちに気合いが入りすぎたのかしら?
私は、さささーっと手で雑に霧を払いながら、振りむいて、息をのんだ。
王太子様が席を立ち、私の方へと近寄ってきている。
それはいいのだけれど、薄い紫色の霧の中に立つ王太子様は、なんとういうか美しさが増し、ものすごいことになっている。
私の出す霧は、通常は目立たず地味で、すぐ消える。それなのに、今は、全力で王太子様を引き立てているわ!
なんて幻想的なの!
神様が降臨したみたいで、思わずひれ伏しそうになる。
しかし、人とは思えないほど美しいと、なんだか怖いわね。離れたい…。
本能が、「逃げて!」と叫んでいるみたいな感じだ。
とはいえ、逃げるのは、さすがに失礼なので、なんとか根性で踏みとどまった私。
麗しいお顔が、どんどん近づいてくる。近づいてきた! 目の前にきた!
とまれ! 何故、とまらない?!
ちょっと、近い近い近い!
顔が近すぎるんだけどっー!
心の中で、不敬な叫び声をあげ続ける私。
耐えきれず、一歩後ろにさがった。
すると、王太子様は、私の目の前で、やっと足を止め、うっとりとした微笑みを浮かべた。
「ルシェルの霧で、前が見えず、近づきすぎてしまいましたね。それにしても、ルシェルの霧は、なんと優しく美しいんでしょう! あなたに包まれているようで、ぼくは、今、最高の気分です。こんなに霧がでるほど、ぼくのために祈ってくれたのですね。ありがとう」
…ええと、色々、間違っていますよ、王太子様?
まず、私の霧は、人の顔が見えないほど濃くはないですよね?
それと、私に包まれるって、どういうことかしら? 意味がわかりません。
あと、霧がですぎたのは、おそらくそういう理由ではないです。はい…。
そして、それらの思いを全部ひっくるめて、私は声にだした。
「それは光栄です。王太…いえ、レオ…様」
小心者の私は、またもや、心とは全く違う言葉に変換してしまったわ…。
そのとたん、王太子様の目が、やわらかい光をおびた。
「自ら、レオと呼んでくれるなんて、嬉しいですよ。ルシェル」
恐ろしい美貌で、とろりとした口調で語りかけてくる。
ドキン! 怖すぎて、心拍数が上がった。
落ち着いて、私。そして、気をつけるのよ、私…。
だって、この方は、まるで、人をたぶらかす、悪戯好きの神みたいなものだもの!
私では到底、渡りあえない!
やはり、できるだけ早く、筆頭聖女と婚約者様を引き継ぎ、のんびりとお菓子を食べ歩ける生活を目指さないと!
読みづらいところも多々あると思いますが、読んでくださった方、ありがとうございます!




