運命ですね!
よろしくお願いします!
とりあえず、今は、アルバートさんのことは忘れよう…。
私は、気をとりなおして、王太子様に聞いた。
「今日、お祈りしたいこととは、どのようなことでしょうか?」
「そうですね、国の安寧をお願いしましょうか」
「…へ? …いや、それは、毎日祈ってますよ…? 今日、別に祈られたいことがおありで来られたのでは…?」
だって、ロジャー様が言ってたわよね?
新人聖女が来る日で、ルシェルは忙しいから別の日にして欲しいって言ったけど、今日、祈りたいことがあるんだって…。
と、心の中だけで疑問をぶつける。
そんな私を見て、王太子様が、長すぎるまつ毛を伏せ、寂し気に言った。
「ぼくの急ぎの用は、ルシェルに会うことですよ…。ルシェルはぼくに会えなくても良かったのですね…?」
ええ、もちろん! だって、待ちに待った私の後継者、ルビーさんが来る日なんだもの!
私が真っ先にお迎えしようと思ってたのにー!
と、心の中だけで文句を言う。
が、口からは裏腹の言葉が飛び出した。
「いえ…そんなことは…ありません…。新人聖女の来る日だったので、あわただしいかと思い…」
しどろもどろで言い訳してしまう小心者の私。
「そういえば、叔父上がそう言ってましたね。いつ、来るのですか?」
「おそらく、もうそろそろかと思います」
王太子様のお祈りを素早く終わらせて、なんとか、ルビーさんを出迎えたいなあ。
「楽しみですか? ルシェル」
「はいっ、もちろん! ルビーさんと言って、癒しの力が強くて、私の地味な力とは全く違う、とーっても華やかな力を持ってるんです!」
と、近い未来、王太子様の婚約者になるルビーさんを精一杯アピールしておく。
すると、王太子様は、ふーっとため息をつき、真顔で言った。
「ルシェルの力が地味? 相変わらず、ルシェルは自分のことを何もわかっていませんね。…もちろん、ぼくのことも。…どうやってわからせようか…?」
え? 今、何か、ぞわりと寒気がしたのですが…?
でも、優雅に微笑む王太子様を見ると、どうやら空耳よね?
「…私が力を使うと、私の瞳の色と一緒で、地味なうっすい紫色が広がるだけです。ルビーさんのように、華やかなピンク色だったり、エリカ様のように、光り輝いていたりしないんですよ?! どこをどうとっても、地味すぎです。やはり、筆頭聖女たる者は、力も見た目も、ぐっと民衆の心をつかむように、人目をひく華やかさがないといけないと思うんです!」
気が付くと、王太子様を目の前に、私は力説してしまっていた。
とたんに、王太子様の瞳が、冷たい色を宿す。
「もしや、ルシェルは筆頭聖女をやめたいとか思っていませんよね…?」
思ってます!…なんて言おうものなら、処刑されそうなほどの圧が押し寄せてくる。
私はあわてて、激しく首を横にふった。
「…いえ、とんでもありません…」
本当はとんでもあるのだけれど、そんなこと言ったら殺されるわね!
王太子様は微笑みを浮かべたまま、鋭すぎる眼光で私を射抜く。
「では、そろそろ神殿に移動して、筆頭聖女ルシェルに祈っていただきましょうか? せっかくですので、新しい聖女にもご挨拶しておきましょう」
うわ、ルビーさん! 来て早々に、王太子様に会うなんて! やはり、お二人は運命なのね…フフフフフ。
わきあがる笑いをなんとか抑え込む私。
そんな私を見る王太子様の瞳に不穏な炎がともっていることに、私は全く気づかなかった。
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