引っ張られます!
よろしくお願いします!
衝撃的すぎて言葉がでない私。おそらく、ジャックも…。
そして、怖いもの見たさなのか、アルバートさんから目が離せない。
そんな注目をものともせず、アルバートさんは、組んでいた両手をおろし、微笑みをひっこめた。
そして、裏声ではなく、若干低めのいつもの声で言った。
「以上です」
そう言うと、速やかに、元いた位置にもどった。表情は無だ。
シーンとした空気のあと、パチパチパチと拍手の音。
目の前の王太子様だ。
「さすが、アルバートですね。私の思ったとおりの答えです」
…え? そうなの?
アルバートさんは、無の表情のまま、王太子様に頭を軽くさげた。
「ルシェル。アルバートが言ったように、レオが正解です。以前、お願いしましたよね? レオと呼んでください、と。一度も呼んでくれたことはありませんが…」
「…はあ、すみません…?」
私の思考は、いまだ、アルバートさんに引っ張られているため、ぼんやりと答える。
「では、ルシェル。アルバートの言ったように、私を呼んでみてくれますか? …ああ、ちなみに、アルバートの見本も点数であらわすと、言葉は正解で100点ですが、その他は気持ちが悪かったので、マイナス100点。よって、0点です。呼び方以外は真似しないでくださいね」
優雅に微笑む王太子様。
言われなくても、真似しませんが?!
それよりも、あんな体当たりの行動が0点って…。
アルバートさん、それでいいの?!
そう思って、アルバートさんを見ると、全く気にしてないように、表情は無のままだ…。
背が高く、細身で、端正な顔。
なにより、髪の毛も服装も、ぴっちり決まっていて全く隙がないアルバートさん。
いつも冷静沈着だと思っていたのに…。
今さっき見たものは幻覚かしら…?
「…ルシェル、ひどいですね。そんなにアルバートが気になりますか?」
寂し気な表情でぽつりと言う王太子様。
罪悪感をそそるお顔ですが、瞳の奥がメラメラしてます。
王太子様が、いらつきはじめてる!
私は、あわてて、王太子様を正解の呼び方で呼んでみた。
「レオ…王太子様!」
オとおがつながって、呼びにくいわ…なんて考えていると、目の前から、ふーっとため息が…。
もちろん、王太子様だ。
「ええと、どこか間違ってましたか…?」
「ええ、違います。ルシェル。王太子はいりません。婚約者なのですから、レオと呼んでください」
「え、…しかし…さすがに、それは不敬では?」
もうすぐ婚約者ではなくなるのだしね…。
「なら、もう一度、アルバートに見本を見せてもらいますよ。2度目になりますので、もう少しハードな感じにしてもらいましょうか? それに、2度も見たのなら、アルバートの言動も動きも、きっちりと覚えて、ルシェルに真似していただきますが、それでもいいですか?」
麗しい笑顔で、恐ろしい提案をする王太子様。
それにしても、ハードな感じって…。何をするの、アルバートさん?!
自分に関係がなかったら、見てみたいと思うほどには興味をひかれているのだけれど、今は身の安全が一番。
アルバートさんを見たあとなら、礼儀とか、もう、どうでもいいという感じ。
私は、再び、目の前の王太子様めがけ、全く距離を無視した声量で叫んだ。
「レオ様ー!」
「はい、ルシェル」
美しすぎる笑顔で即答する王太子様…いえ、レオ様。
仮初の婚約者様とはいえ、やはり、私の手には負えない方だと再確認する。
一刻も早く、ルビーさんに引き継がなければ!
読んでくださった方、ありがとうございます!