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秘密

「新しい聖女さんだね」

と、ルビーさんに優しく声をかけたモリージャ様。


「あ、はい。……ルビー・ロランと申します。よろしくお願いいたします」


緊張した面持ちで答えたルビーさん。


モリージャ様はルビーさんの目をじっと見たあと、染みわたるような声で言った。 


「いい目をしておる。ルビーさんか……ふむ。その名は気に入っておるかな?」

と、モリージャ様が聞いた。


なんで、そんなことを聞かれるのかしら?

不思議に思って、ふたりの様子に注目する。


ルビーさんが動揺したように、モリージャ様から目をそらしたあと、消え入るような声で答えた。


「……いえ……」



「そうだろう。その瞳の色に似せた呼び名を作っただけのようで、どうもしっくりこんのだ」


「さっすが、モリージャ様! ビーさんのこと、即刻、見抜いてるー」


ノーラン様が嬉しそうに声をあげた。


そう言えば、ノーラン様がルビーさんに最初に会った時に変なことを言ってたわよね。


確か、「ルビーって、なんか君にしっくりこない名前なんだよねー? だから、君のことは、ビーって呼ぶことにするね」とか、言っていたような……。


偽エルフが難癖をつけているだけかと思ったけれど、まさか、尊敬すべきモリージャ様まで同じようなことを言うなんて……!


一体、どういうことかしら?


すると、モリージャ様がルビーさんに優しく声をかけた。


「なにやら事情があるようじゃのう。口にだしてみてはどうだ? 少しでもここにいれば、もう、わかっておるだろうが、ここにいる皆は優しい人間ばかりだ。訳も聞かず責めたりはせんし、なにより頼りになるぞ?」


そう言って、みんなの顔を見回した。


「言っちゃえ、言っちゃえー! まあ、天才魔術師の僕は、一目見た時からわかってるけどね」


自慢げなノーラン様。


「自分で天才という者ほど怪しい者はいませんけどね?」


王太子様がひんやりと口を挟んだ。


「ふうううん、僕の才能に嫉妬してるのー?」


偽エルフが煽るように言い返す。

いつもどおり、言い合うふたり。

が、そんなことはどうでもいい。思い悩んでいるようなルビーさんの表情が気になってしまう。


そう言えば、先日、ノーラン様がルビーさんの隠し事がどうのこうの言ってたわよね。

モリージャ様が事情と言われたのは、そのことかしら?


ノーラン様とルビーさんの会話を思い出してみる。


確か、あの時、ルビーさんは、

「数日、待ってください。自分の口から言います」

みたいなことを言ってたっけ。


それで、ノーラン様が、

「ビーさんの歓迎会で、どーんと発表したらー?」

みたいなことを言って、覚悟を決めたような顔で、ルビーさんが了承していたと思う。


つまり、ルビーさんには秘密があって、それを今ここで、みんなの前で言おうとして思い悩んでるの!?


なんてこと!


私はルビーさんに駆け寄り、思わず、ぎゅーっと抱きしめた。


「いいのよ、ルビーさん。誰にだって隠したいことはあるんだから! 無理して言わなくていいの!」


「ル……ルシェルさんっ!」


驚いたような声をあげたルビーさん。


ルビーさんは聖女の外出用コートを着たままだけれど、厚さのある服越しにも、体を固くさせているのが、はっきりとわかる。


かわいそうに、こんなに緊張して……。


私が、ぎゅうぎゅうと抱きしめていると、後ろからものすごい力でぺりっとはがされた。


振り返ると、あ、王太子様……。

笑っているけれど、目が笑っていない。


思わず、ぶるっと震える。


「ルシェル。他人に抱き着くなんて感心できませんね」


「でも、ルビーさんは大事な聖女仲間で……」

と、言いかけたら、今度はノーラン様が私の手をひっぱった。


「ビーさんはダメー。それに、ルシェにさわっていいのは僕だけだもーん」


「おまえもルシェルに触るな!」


王太子様の口調ががらりと変わった。


「嫌だよー!」


ビシバシと険悪な気をまきちらしだしたふたり。

そろそろ、エリカ様の雷が落ちる頃だわ……。


と思ったら、ハハハッと朗らかな笑い声が響いた。

モリージャ様だ。


「ふたりとも、本当にルシェルが大好きじゃな。まあ、私にとっても、ルシェルはかわいい孫だから気持ちはわかるがね」


そう言って、私に向かって、パチリとウインクした。


一気に場の空気が和んだ。


さすが、モリージャ様! 

癒しの神様だわ!


そして、更に私に向かって、モリージャ様は言った。


「ルシェルの言うこともわかる。だが、この子は秘密をかかえているのがつらそうだ。もう、かかえきれないんだろう。そうじゃないかね?」


そう言って、ルビーさんに包み込むようなあたたかい視線を向けたモリージャ様。


ルビーさんはうなずいた。

残り3話になります。よろしくお願いします。

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