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必要ない

ルビーさん本人はそっちのけで、勝負師エリカ様 VS 聖女の理想像は譲れない神官イルミさん。

それを煽る偽エルフといった構図が目の前にひろがった。


でも、髪を切ったことで、聖女の力が減ったかどうかなんてどうやって試すのかしら……?

大幅に減ったとかなら、はっきりわかると思うけど。


私の場合、多少の変化だとわからないわね。

だって、体調によって力の出方は違うし、なにより、気持ちの入れようで、かなり違ってくるもの。


なんて、考えていた時だった。


「試す必要などありませんぞ」

と、よく通る声がした。


みんなが一斉に声のほうを見た。


そこに立っているのは、前神官長だったモリージャ様。


つるっと輝く頭に、白くて長いおひげはふさふさ。

少し垂れた目は、いつだって、やさしい。


モリージャ様の懐かしいお顔に、嬉しさがこみあげてくる。


「モリージャ様! 来てくださったんですね!」


叫びながら、誰よりも早く駆けよったエリカ様。


私もあわてて、駆けよっていく。


あっという間に、小柄なモリージャ様はみんなに取り囲まれてしまった。

というのも、初めて会うルビーさん以外は、ここにいるみんな、モリージャ様にとてもお世話になったから。


私が6歳で神殿にきた時、モリージャ様は神官長様で、ものすごくかわいがってくださった。

それは、もう、本当のおじいさまのように。


エリカ様も同じらしい。

異世界からやってきたばかりのエリカ様の後見となり、盾となったモリージャ様。

エリカ様は常日頃から「モリージャ様は異世界のお父さんなの」と言っている。


そして、誰にだって態度の大きいノーラン様も、モリージャ様の前では甘える子猫のよう。


膨大な魔力で7歳にして魔術院に入ったノーラン様。

多くの大人たちが恐れて、遠巻きにした。

そんなノーラン様をモリージャ様が神殿と魔術院という垣根も超えて、あれこれと面倒をみたと聞いている。


というか、王太子様もロジャー様もアリシアさんもイルミさんもノアも、他の人たちだってみんな同じだと思う。

モリージャ様は相手がだれであっても、分け隔てなく、いつだって笑顔で優しく包み込んでくれたから。


聖女の力とはまた違って、モリージャ様に話をきいてもらうだけで癒されるのよね。


モリージャ様が神官長を引退したいとおっしゃられた時、国王様は生きている人では初めて、「聖人」の称号を授けようとしたけれど、モリージャ様は断り、故郷の村へと帰られた。


今では、畑で作物を作りながら、静かに暮らされているそう。


ということで、久々にモリージャ様にお会いできて、みんなの喜びが爆発した感じ。


「もう、言ってくれたら、僕が迎えに行って、魔力を使って、ぶーんとモリージャ様を運んだのにー!」


嬉しそうに文句を言うノーラン様。


「いや、気持ちだけで十分だ。ノーランにぶーんと運ばれたら怖くて敵わんわ」

と、微笑むモリージャ様。


「せっかく王都にこられたのだから、王宮にも是非寄ってください。ずっと滞在してくださったら、嬉しいのですが」

と、王太子様。


「ちょっと、レオ。それはダメよ。モリージャ様は私のお父さんなのよ。うちで泊ってもらうんだから!」


「そうだぞ、レオ。エリカの言うとおりだ。どうぞ、この屋敷でのんびりしていってください。お父さん」


ロジャー様がエリカ様を真似た口調で、モリージャ様に呼びかけた。

そんなふたりの様子に、モリージャ様が楽しそうに笑った。


「ふたりとも変わらず仲睦まじくて良かった。ロジャー君、これからも娘を頼むぞ。それと、せっかくのお誘いだが、私はすぐに村に帰るよ。畑の世話があるからな」


「じゃあ、帰りこそ、僕にぶーんと送らせてよ」

と、ノーラン様。


「いや、ノーラン、帰りも遠慮しておく。村のもんが馬車で待ってくれておる」


「えー!」


叫ぶ偽エルフ。


モリージャ様に構ってほしくて、みんながわいわいしていたら、当の本人であるモリージャ様が輪をぬけて、ルビーさんのもとへとにこやかに近づいていった。


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